採用力強化に向け、初任給引き上げと同時に考えなければいけないこと
採用・定着
採用競争力を強化する手段として、初任給引き上げを検討する企業が増えています。しかし、初任給を引き上げても応募が増えない場合や、応募は増えたものの選考辞退や早期離職が発生するなど、期待した効果が得られないケースも少なくありません。
初任給引き上げは採用競争力強化に向けた有効な手段の一つですが、それだけでは採用課題が解決するわけではありません。本稿では、初任給引き上げを検討する際に同時に押さえておくべきポイントを、採用プロセスの各段階(母集団形成・選考・受け入れ)に分けて整理します。
1.母集団形成の段階におけるポイント
初任給を引き上げても応募数が増えない場合、その原因は賃金水準以外にあると考えられます。主な原因は、①認知不足、②興味喚起不足です。
①認知不足
企業の魅力や初任給引き上げに関する情報が、求職者に十分に届いていない状態です。
特に中小企業では、大手企業と比較してそもそも認知度が低く、加えて採用予算にも制約がある場合も多いため、求人媒体上で埋もれてしまう傾向があります。掲載する媒体やタイミングが適切でなければ、せっかくの初任給引き上げも認知されないまま見過ごされてしまいます。
例えば中途人材の場合、一般的な賞与支給タイミングである6月前後や12月前後、新年度前の2.3月が特に転職活動が活発化しやすい傾向にあります。そのタイミングに合わせて集中的にリソース(予算等)を投下する、といったことも一案です。
②興味喚起不足
求職者は給与水準だけで企業を選ぶわけではなく、仕事内容や成長機会、職場環境などを総合的に判断しています。そのため、初任給を引き上げても「どのような仕事か」「どのように成長できるか」「この企業ならではの強みややりがいはなにか」といった情報が具体的に伝わらなければ、応募には至りません。給与以外の魅力を、求職者の関心に沿った形で伝えることが求められます。
また近年は求職者の情報収集行動が多様化しており、求人媒体や企業のホームページに加えて、口コミサイトや企業SNSを確認することも一般的になっています。
口コミサイトは「入社後のリスクを確認するための情報源」として、実際の残業時間や年収水準、人間関係、退職理由などの確認に活用されています。
一方、企業SNSは「働くイメージを具体化するための情報源」として主に活用されています。
口コミサイトに記載される内容を企業側がコントロールすることは困難ですが、企業SNSは投稿内容や頻度などを自社でコントロールできるため、社員の様子や職場の雰囲気、日常の取り組みなどを通じて、「どのような人が働いているのか」「どのような環境なのか」など、自社の魅力を伝える上で有効です。ただし留意点として、発信する社員によって内容が大きく変わる、会社として発信したい内容と投稿内容が異なる場合、求職者に与える印象が変わってしまいます。SNSを運用する場合は「発信内容」「投稿頻度」など、予め運用方針を決めておくことが大切です。
2.選考段階におけるポイント
初任給引き上げによって応募数が増加すると、選考の質に影響が生じる可能性があります。
①見極めの質の低下
応募数の増加により、一人あたりにかけられる選考時間が減少すると、応募者の適性や志向性、価値観を十分に把握できなくなる可能性があります。その結果、企業との適合度が低い人材を採用してしまい、入社後のミスマッチにつながるリスクが高まります。
こうしたリスクを回避するためには、合否基準の明確化や面接形式(質問内容等)の標準化、さらには面接回数の見直しや適性検査の導入など、選考プロセス自体の見直しが必要な場合もあります。
②動機づけの不足
面接や面接前後のフォローに十分な時間を割けない場合、求職者との相互理解が浅くなり、「この会社で働きたい」という動機が十分に形成されないまま選考が進む恐れがあります。特に、複数社を並行して受けている求職者の場合、動機づけが弱い企業から優先的に辞退されやすくなります。また、動機が不十分な状態で入社した場合、早期離職につながるリスクも高まります。
そのため、採用担当者だけではなく、他の社員にも予め協力を仰ぎながら面接前後で面談の機会を設ける、面接に同席してもらうなどの工夫をすることも一案です。
3.受け入れ段階におけるポイント
採用人数が増加した場合、受け入れ体制が追いつかないケースがあります。
①教育・フォロー体制の不足
採用人数の増加に対して教育体制やフォロー体制が整備されていない場合、指導担当者の負担が増加し、十分な教育機会を提供できなくなります。その結果、新入社員が業務を十分に理解しないまま現場に配属され、不安や負担が増大し、早期離職につながるリスクが高まることも想定されます。
こうしたリスクを回避するためにも、予め育成計画を明確にしておくことや、オンボーディングプログラムの整備など、教育・フォロー体制を整えておくことが必要です。
初任給引き上げは有効な施策の一つですが、それ単体で採用課題が解決するわけではありません。母集団形成、選考、受け入れの各プロセスを通じて見直すことが、採用力強化には不可欠です。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
