企業年金の将来像(4) 退職金の前払い制

厳密に言うと「企業年金」の範疇から外れますが、最近の傾向として、退職金・企業年金を廃止して前払い制にする企業が増えてきましたので、今回は前払い制をテーマに考えてみたいと思います。
 
前払い制とは、退職金制度を廃止して、毎月の給与や賞与に上乗せ支給する形態を指します。かつて、松下電器(現在のパナソニック)が《新入社員については退職金と前払いとの選択制を適用する》と発表し、話題になったのをご記憶の方も多いと思います。
 
なぜこのように前払いにするのか - その動機の主なものは、
 
1.退職金の将来債務をなくしたい
2.定年退職まで社員を縛り付ける制度から逃れたい
3.毎月の給与や賞与、年俸などで支給することによって、社員の「今」の生活の安定とモチベーションアップを図りたい
 
といったことが考えられ、これらの目的が実現すれば、前払い制にするメリットは大きいといえます。
 
逆にデメリットは、
 
1.退職所得ではなく給与所得となるので、税負担や社会保険負担(労使ともに)生じる
2.時間外手当の算定基礎の単価アップになる(月次給与とする場合)
3.社員の老後サポートがなくなり、自助努力を余儀なくされる
 
といったところです。
 
また実務的には、従来の退職金が消滅することに対する不利益変更に見合う、前払い金額の設計が求められます。そして何よりも、社員の十分な理解と納得を得た上で実施しなければならないのは言うまでもありません。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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