退職金制度改革の実践 その1 ~退職金制度の「見える化」~

1.規定のオープン化
前回は、退職金改革の方向性として次の3点を掲げました。
 
1.「見える化」により社員の関心度を高めよう
2.優秀な社員の満足度を高め、非優秀社員の依存体質を改めるため、実力主義要素を高め、かつ後払いから前払いのシステムを目指そう
3.老後の生活保障に少しでもサポートできるシステムを目指そう
 
では、1番目の「見える化」について、その考え方と手法を紹介します。
 
「見える化」の第1歩は、まず規程をオープンにすることです。退職金規程は就業規則の一つとして、労働条件の一角をなします。ただし労働基準法では、必ずしも全企業が退職金に関する規定を設けなければならないというわけではなく、「制度を設けるからには、規程としてきちんと明示しましょう」という相対的必要記載事項の一つとされています。
 
2.今後は「どんぶり制度」は通用しない
問題は、これまでも退職者に対する退職金の支払はあったけれども、きちんと規程化されていないケースです。 これを私は「どんぶり退職金制度」と呼びます。 経営者にとっては、退職金支給の有無を暗黙のうちにコントロールできますので、経営者の一存で適当な差をつけられるなど、非常に都合の良い状況を作ることができます。
 
実は、第1回目の「退職金制度を人材戦略にどう活かすか その1」でも書いた退職金制度の意義のうち、最初の《功労報奨》という意味では、どんぶり退職金制度は最も理にかなった支給方式ともいえるのです。なぜなら、功労報奨は経営者の一方的な労いであり、その基準は経営者自身が一番よくわかっているからです。 しかし、このような前近代的な退職金支給方法は今の時代には通用しません。社員数十人ならまだしも、従業員規模が増えてくると、それなりの公平感をもった基準が必要となります。また、経営者自身がどのような考えで支給すればよいのか判断がつかなくなることもあるでしょう。
 
3.特別加算制度
そこで、自社はどのようなルールで退職金を支給するかの基準を決めて、退職金規程とすることが必要となります。
 
このときに、「どんぶり退職金」要素を全く排除し、完全にオープンなルールにするのも一つの方法ですが、中小企業でお勧めするのは退職金の本体部分は明確なルールにしておき、それに加えて一部「本人の功労により特別に加算して支給することもある」という特別加算方式を設ける方法です。 これであれば、ルールの明確化を実現しながら、経営者裁量の部分を残しておくことができます。経営者裁量を乱用するのはかえって混乱のもととなりますが、全社員の顔の見える中小企業には、有効な制度といえるでしょう。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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