今後のトレンドになるであろう”仕事主義”の人事制度について

日本企業の人事制度については、社員の「年功(年齢/勤続)」や「能力」といった”人”を軸に処遇を決定する仕組みが、依然として主流を占めています。どのような内容/レベルの”仕事”を実際に担っているかということも、処遇決定に際してある程度は考慮されるものの、それ以上に「どれだけ長く会社に勤めているか」や「どのような能力を持っているか」といった”人”そのものにフォーカスして等級の格付けや給与・賞与の支給額を決めている企業が、日本ではまだまだ多いというのが実情です。
 
処遇決定にあたり年功や能力といった”人”の要素を考慮することは、社員に安心感を与えるなどのメリットがあるのも事実です。欧米人よりも安定志向の強い日本人に対して、属人的な要素を軸にして処遇を決定する制度は、ある意味、マッチしているとも言えます。しかしながら、10年前や20年前と比べると、日本企業を取り巻く環境は確実に変化しており、かつそのスピードは年を追うごとに速くなっています。そのような変化の中で、従来型の年功主義や能力主義の人事制度に固執していると、ビジネスを推進・展開していく上での競争力を低下させることにつながりかねません。
 
例えば、最近、人事分野で一番大きな課題と言えば「人材不足への対応」です。このような課題がある中で、年功的にしか上がっていかない処遇制度を維持したままだと、優秀な社員(特に若手社員)を採用することは非常に難しいと言えるでしょう。なぜなら、そのような社員ほど、よりレベルの高い仕事とそれに応じた賃金を、現在進行形で求めているからです。彼/彼女たちにとっては、”未来の安定”よりも”今の充実”の方が優先度が高いということです。
 
ひと昔前までであれば、若くして入社した当初は賃金が低くても、長く勤めることで40代/50代になればそれなりの賃金がもらえるようになる・・・という仕組みでも、人材採用面で大きな問題はありませんでした。しかしながら、今後は、年齢や勤続年数に関係なく、その時々での仕事の内容/レベルに応じた賃金を支払う仕組みにしないと、優秀な若手・中堅社員が離職してしまう、もしくは外部の労働市場からそのような社員を採れない、といった状況に拍車がかかるでしょう。当然、優れた人材を採用できなければ、会社の競争力を持続的に高めていくことはできません。

 

“仕事”を軸にした人事制度、すなわち実際に担っている「職務」や「役割」に応じて処遇を決定する仕組みというのは、これまでも大手企業や先進的な中堅企業を中心に導入されてきました。しかしながら、今後は、企業の規模や業種にかかわらず、より多くの日本企業において”仕事”を軸にした人事制度の採用が進んでいくものと考えられます。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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