なぜ若手が育たない?若手社員を定着・即戦力化させるためのポイント

Ⅰ.若手社員の定着・即戦力化に必要な「職種別教育計画」

人手不足が加速する中小企業の場合、人材採用と同じくらい重要なのが、若手社員の定着・即戦力化です。

大企業と比べ、時間・人員・コスト面にさまざまな制約がある中小企業では、採用した若手社員が1日でも早く会社の戦力となってくれることほどありがたいことはありません。

では、若手社員を定着・即戦力化するためには何が必要なのでしょうか。それは、現場任せの属人的な教育を推し進めるのではなく、自社の社員として持つべき重要なスキル・知識・マインドの習得に向けた職種別教育計画を企業の責任で策定し、戦略的かつ効率的な教育を推し進めることです。

職種別教育計画とは、「若手社員に求めたいレベル(ゴール)」をもとに、それを実現するために「いつ・誰が・何を・どのような手段で教育を行なうか」を職種別に見える化したものです。以下より、職種別教育計画の策定手順をご紹介します。

 

Ⅱ.職種別教育計画策定の全体像

教育計画は以下4つのSTEPで策定します。なお、策定した教育計画が「絵に描いた餅」とならないよう、経営陣や総務人事部門のメンバーだけでなく、各部門の管理職等の現場社員も交えて検討することで、実態に即した教育計画を策定することが重要です。
 
【STEP1】1年後のあるべき姿と入社1年目に担当・経験させたい業務・作業の検討

〇早期に担当・経験させたい業務・作業と、それぞれにおける入社~1年後に到達してほしいレベル(習熟度)を洗い出す

 
【STEP2】STEP1の内容に必要なスキル・マインドの検討

〇担当予定の業務・作業を推進するために必要なスキル・マインドおよびビジネスパーソンとして必要不可欠なスキル・マインドを洗い出す

 
【STEP3】スキル・マインドの習得に向けた教育内容&手段の検討・見直し
 

〇STEP2の内容に対して、現在実施している教育内容(OJT/Off-JT)を整理する

〇新たに教育すべき内容を検討の上、より効果的な教育となるよう手段を見直す

 
【STEP4】教育担当者・教育スケジュールの作成

〇それぞれの教育内容について、「誰が」「いつからいつの期間で」実施するのかを立案する

 

Ⅲ.【STEP1】1年後のあるべき姿と入社1年目に担当・経験させたい業務・作業を検討する(Goal)

多くの中小企業では、若手社員への教育が属人的となっており、就く上司・先輩によって教育内容が異なることで、若手社員の定着・成長を阻害する要因の1つとなっています。そして、教育の属人化が進行している原因の1つとして、「若手社員に対して、まずはどのような業務・作業を経験させたいか?」「そのために必要となる知識・スキルは何か?」といったゴールイメージが上司・先輩の違いによってズレが生じていることが挙げられます。これでは、会社としての戦略的かつ効率的な教育を推し進めることはできません。

そのため、まずは入社後1年間で若手社員に担当・経験させたい業務や作業の洗い出しを行います。具体的には、「〇〇業務を独力で遂行させるためには、△△に関する知識や□□スキルが必要」等を職種別に洗い出すことで、「1年間を通じて何のスキル・マインドを、どの程度まで習得させるか?」といったゴール設定を行います。

 

Ⅳ.【STEP2】STEP1の内容に必要なスキル・マインドを検討する(What)

次に、入社後1年間で若手社員に担当・経験させたい業務・作業の遂行やビジネスパーソンとして必要なスキル・マインドを検討します。この時重要なのは、担当業務・作業を遂行するために必要な知識・スキル(=テクニカルスキル)だけでなく、業種や職種を問わず、ビジネスパーソンとして必要不可欠な知識・スキル(=ポータブルスキル)と自社で働く上で必要な心構え・価値観・考え方(=マインド)の3点を抜け漏れなく洗い出すことです。

そして、若手社員を即戦力化するために、まず習得すべきはマインドとポータブルスキルです。なぜなら、この2つの要素を初期段階で、いかに鍛えられるかが、その若手社員の成長スピードに大きく影響するためです。

経営者に若手社員が身に付けるべきスキルを尋ねると、多くが実務的なスキル(テクニカルスキル)を挙げます。たしかに早く一人前になってもらうには、実務スキルを高める必要がありますが、何ごとも基礎が大事であり、仕事においても基礎基本をしっかりと築いてから実務面でのスキルを身に付けさせるほうが、安定した成長を遂げることができます。つまり、ポータブルスキルに付随して、「自社で働くうえで必要な心構え・価値観・考え方」というマインドの教育を行なうことが、自社で活躍できる人材となるために重要なのです。

なお、以下にテクニカルスキル・ポータブルスキル・マインドの主な例を挙げますので、ご参考にしてください。
 
<テクニカルスキルの例>

営業スキル(商品知識/ニーズ把握力/提案力)、製造スキル(製品知識/段取り力/改善力)、接客スキル(販売知識/関係構築力/トラブル対応)、技術スキル(技術力/プログラミングスキル) 等
 
<ポータブルスキルの例>

ビジネスマナー(敬語・電話応対)、指示受けスキル、報連相スキル、タイムマネジメント力、PDCA、実行力 等
 
<マインドの例>

前向きに学び続ける姿勢、顧客意識、コスト意識、時間意識、当事者意識 等

 

Ⅴ.【STEP3】スキル・マインドの習得に向けた教育内容&手段の検討・見直し(How)

若手社員に必要なスキル・マインドの整理ができたら、次は以下の手順に沿って、そのスキル・マインドを習得させるための教育内容(How)について検討します。
 

❶洗い出したスキル・マインドを3要素(テクニカルスキル・ポータブルスキル・マインド)ごとに区分・整理

 
❷❶を習得させるために、現在社内で行っている教育内容の整理

〇各スキル・マインドを習得させるために、現在全社・部門別に実施しているOJT(業務同行・現場指導等)や、Off-JT(社内勉強会・社内外研修・社内検定等)の内容を洗い出します。

 
❸現在社内で行っている教育内容の効果性検証および評価

〇次に、その教育内容の効果性を検証し、定着・育成に繋がっている有効な教育かどうかを判定します。中小企業の場合、「今までもやっているから」といった理由で、毎年同じような内容・スケジュールでOJT・off-JTを実施しているケースも多く見受けられますが、より良い教育を行う上では、今一度、実施している教育・指導内容が有効な施策かどうかを見直すことが重要です。

 
❹教育内容の分類および教育内容における過不足のチェック

〇同時に、現在行っている教育の量・質に偏りがないか・不足がないかをチェックしていきます。これにより、習得してほしいスキル・マインドに対して、現在は計画的な教育ができていない項目や不足している項目を洗い出すことができます。

 
❺教育が不足していた項目に対する教育内容の検討

〇現在の教育では網羅できていなかった項目に対して、新たにどのような教育を実施するかを検討します。該当項目は、若手社員教育における盲点となっていた可能性があります。したがって、部門長や現場リーダークラスで、この点について話し合いの場を設け、「どのような教育をすれば習得できるか?」について、改めてじっくりと検討することが重要です。

 

Ⅵ.【STEP4】教育担当者・教育スケジュールを作成する (Who・When)

最後に、「誰が」「いつからいつの期間で」実施するのかを立案します。まず、教育担当者は、「〇〇氏」と具体名を記入することが理想ですが、それが難しい場合は「部門長」「総務人事部門」など、部門名や役職で代替しても問題ありません。いずれにせよ、「その教育は誰が実施するのか」と責任者をはっきりと明記することで、教育を「絵に描いた餅」にしないようにすることが重要です。

また、教育スケジュールは、教育における優先順位だけでなく、会社の繁閑期と現場負担等を踏まえて作成します。特にOJTは実際には現場社員を中心に教育することが多く、経営者や総務人事部門の「あるべき姿」だけで作成しては現場を疲弊させるだけで、教育計画の運用に支障をきたしてしまいます。そのため、現場社員にとってムリ・ムダのない効果的・効率的なスケジュールを組むよう心がけましょう。

 

Ⅶ.売り手市場の“今”だからこそ、採用・定着施策の抜本的改革を!

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執筆者

大園 羅文 
(経営支援部 シニアコンサルタント)

「採用・定着コンサルタント」として、中堅・中小企業を対象とした人材採用支援(新卒・中途)、若手人材の定着・即戦力化支援、人事制度の構築・運用支援に従事。
特に、『若手人材の採用・定着力の強化』を得意テーマとしており、中小企業独自の問題に対する支援を通じて、“欲しい人材を採用・定着させる企業づくり”をテーマに掲げている。
「成功事例で分かる 小さな会社の採用・育成・定着の教科書」(日本実業出版社) 著者

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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