同一労働・同一賃金の幻想

「同一労働・同一賃金」 同じ価値の仕事内容であれば、同じ賃金にしなさい、という考え方です。どこかで聞いたことはあるが、深く意味を考えたことのある人は少ないかもしれません。
 
先進国では当然の考え方として認識されていて、欧米ではこの原則に沿うかたちで、職種別賃金や職務給という考え方が定着しています。要するに、給与は仕事で決めますよ、ということが当たり前の社会になっているのです。日本も基本的には同意しており、男女雇用機会均等法などは、この流れに沿った動きです。
 
ただし、同一価値の労働といっても、言うは易く行うは難し。同じ労働かどうかを判断するにしても、職種、役割の大きさ、能力水準、成果・業績など、いくつもの要素が存在するからです。
 
たとえば、あなたが正社員であれば、給与明細を眺めてみてください。すると、このような金額が並んでいるかもしれません。
 
 年 齢 給   110,000円
 能 力 給   120,000円
 役職手当   15,000円
 家族手当   20,000円
 住宅手当   15,000円
 技能手当    5,000円
 通勤手当   15,000円
 合   計  300,000円
 
このうち、あなたが担当している仕事の価値によって決められているのは、どの項目でしょうか。
 
年齢給は、自分の35歳という年齢で決まっているのだからNO。能力給は、仕事の能力という意味だからYESでしょう。
 
役職手当も、係長という仕事の役割に対してだからYES。でも、家族手当は、専業主婦の奥さんと子供2人に対してだからNO。住宅手当は、賃貸マンションに住んでいるから今の金額が支給されているのでNO。技能手当は、情報処理技術者の資格に対してだからYESでしょう。通勤手当は、自宅からの通勤定期代だからNO。
 
 このように分けてみると、
 <仕事によって決められている給与>
  120,000円 + 15,000円 + 5,000円 = 140,000円
 
 <仕事以外で決められている給与>
  110,000円 + 20,000円 + 15,000円 + 15,000円 =160,000円
 
となります。
これでは、仕事以外で決められている部分の方が多いことになってしまいます。
 
このケースは、わかりやすい例を示したものですが、表面に出ている賃金の項目だけ捉えてみても、同一労働・同一賃金とは言い難いことが分かります。しかも、その内容が納得できる基準で決められているかとなると、多くの会社では、かなり怪しいのではないでしょうか。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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