相次ぐ物価上昇。さて社員の給料、賃上げどうしますか。
賃金制度
相次ぐ物価上昇、負担のほどは
相次ぐ値上げで、生活必需品がどんどん高くなっています。
帝国データバンクは9月22日、今年の相次ぐ食品の値上げによって、家計負担が平均で月5,730円、年6万8,760円増えるとの試算を公表しました。(*1)
値上げのピークはこの10月で、年内最多となる、約6500超の品目が値上げとなるとのことです。
家計への負担は増える一方、「その割に収入は増えない……」と囁かれています。
経団連の調査によれば、月例賃金引上げの実態(2021年1~6月実施分)として、制度昇給では5,672円、ベースアップでは366円が引上げ額との結果になっています。(*2)
物価上昇に対応するベースアップ部分が月366円では、消費者の懐は痛むばかりです。
4日に首相官邸で開かれた「新しい資本主義実現会議」では、2023春闘に向けて「物価上昇をカバーする賃上げを目標に、企業の実情に応じて労使で議論を」と、岸田首相が述べています。
では、物価上昇に対応するためには、どれくらいの給料が必要なのでしょうか。当然、上記の家計負担分は必要なわけですが……。
いくら稼げば、家計への影響をカバーできる?
まずは、社員目線で考えてみるとします。
家計への負担となる月5,730円、年6万8,760円という金額を、収入でカバーしようとするといくらになるかを計算してみます。
手取り給料を、額面給与のおよそ8割と仮定した場合(実際は所得金額に応じた税率が差し引かれますが)、
上記家計負担額÷0.8で算出すると、月7,163円(小数点第一位を四捨五入)、年85,950円の額面給与増が必要となります。
経営者側の負担は?
ただし、給料を支払う側の立場からすると、上記からさらに、法定福利費などの支出がかさみます。法定福利費をおよそ15%と仮定した場合、
上記額面給与÷0.8で算出すると、月8,954円、年107,438円(いずれも小数点第一位を四捨五入)の人件費増が必要となります。
「物価上昇をカバーする賃上げを目標」とすると、これだけの人件費増を見込むことになります。「企業の実情に応じて」とは言われていますが……、本当にこれだけの人件費増を、固定的な賃金として覚悟しなければならないのでしょうか。
家計支援目的なら、特別一時金の支給によるフォローも一案
生活に不安を抱える社員に対して、なんとかしてあげたい、ということであれば、特別一時金や賞与などを支給することも、ひとつの手です。
サイボウズ社では、7月に「インフレ特別手当」という名目で、アルバイトを含む従業員に6~15万円を一時金として支給したことを公表しています。(*3) この手当は、「急激なインフレによる生活の不安が軽減し、業務に集中できる」ことを目的として支給されています。
このところの値上げは、一度ならず二度までも、同じ企業の製品や品目で起きていることもあります。つまり、先を見通すことがなかなか難しいのです。
月給は、予め定めている給与改定時期以外での見直しは考えにくく、一度上げてしまうと、その性質上は減額することは難しいでしょう。限られた機会で、今後の人件費負担を見越して程良いベースアップを行うことは、今の状況下ではなかなか難しいと言えます。
特別一時金という形であれば、必要なタイミングで、その時に適当と考えられる金額を設定することが可能です。
インフレ手当などの特別一時金を支給する際には、支給目的が物価上昇補填であることや、支給金額の程度を明確にしましょう。賞与を通常より上乗せして支給する場合は、通常賞与と上乗せ部分の内訳をわかるようにすることが大切です。翌年、通常どおりの賞与を支給することになり、物価上昇補填分の額が減ったとしても、社員は納得してくれるでしょう。
ベースアップの程度は、これからの春闘次第
これだけの物価高騰の状況下とはいえ、さすがに一度に7,8千円のベースアップは現実的
ではない、と考えられますが、実際にどれだけのベースアップになるかは、各社の春闘の結果次第です。
今後、続々と情報が上がってくることになるでしょうから、なりゆきを注視していきましょう。
(*1)出典:
株式会社帝国データバンク 特別企画:「食品主要 105 社」価格改定動向調査―家計負担額推計
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220907.pdf
(*2) 出典:
日本経済団体連合会
2021 年1~6月実施分「昇給・ベースアップ実施状況調査結果」の概要
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/010.pdf
(*3) 出典:
サイボウズ リリースページより
「サイボウズ、インフレ特別手当を支給」
https://topics.cybozu.co.jp/news/2022/07/13-18207.html
執筆者
西澤 美典
(人事戦略研究所 シニアコンサルタント)
前職の製造系ベンチャー企業では、営業・人事・総務・WEB制作担当等の実務に従事。
経営者の間近で幅広い業務に携わり、様々な企業や人との出会いを経て、「働く人々の毎日や職場を、より生きがいを感じることのできるものにしたい」という志を持ち、新経営サービスに入社。
経営者と共に、人事制度をキッカケにして、組織で働く人を元気にできるコンサルティングを心掛けている。
設計段階から、先々の運用をイメージした、組織になじみやすい制度づくりを行っている。
全米・日本NLP協会認定 NLPマスタープラクティショナー。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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