メッセージに沿った人事施策・人事制度の見直し
戦略的人事
中期経営計画のリリースや経営陣の交代など、組織には節目のタイミングが存在します。そのタイミングで、方針や取り組みを社内向けのメッセージとして強く打ち出したい、ということもあるでしょう。その際、社内の人事施策や人事制度について、メッセージに沿った行動を促すものになっているかの見直しをセットで実施することが重要です。
この点について、筆者が経験した事例を通じて解説いたします。支援先の企業における概要と状況は以下の通りでした。
- 社員数100人前後のメーカー
- 社長交代を目前に控え、「プラスαにtry」をメッセージとして打ち出したい
なお、このメッセージの背景には既存事業が頭打ちになるなかで、財務的に余力のあるうちに新たな事業のタネを探す必要があった、ということがあります。それに向けて、既存事業に安住し先例踏襲を優先してきた風土を廃するとともに、これまでとは少し違う新たなことに対して積極的に取り組んでもらうことを企図したものです。
そこで、人事施策や人事制度がメッセージと整合するよう、以下の通り改定したうえで、社長交代のタイミングでリリースしました。
1.人事施策:中途採用と異動の強化
各部署に、異なる業務で培った知識・ノウハウや業務の進め方などを持ち込むことにより、「プラスαにtry」=これまでとは異なる新しいことへの取り組みを促すことを図りました。具体的には、これまで新卒メインであった採用を中途主体に切り替えるとともに、製造や営業などの部門内あるいは部門間の、中堅層におけるローテーションの頻度をこれまでよりも増やしたうえで、それらの施策が円滑に進むよう管理職の強化や制度の改善を行いました。
2.人事制度:「プラスα」そのものに対する評価と処遇
これまでの各部署固有のコンピテンシーに関する評価は継続したうで、目標管理や加点評価を導入することで、行動への動機付けを図りました。具体的には、下位等級は自身の新たな提案やそれを実行した量や質に基づき、プラスで評価することにしました。管理職は自身や管掌範囲のメンバーによる提案やその実行の量(ただし効果性や実現性が一定以上認められるもののみに限る)について目標を設定し、達成度で評価することとしました。
このように、打ち出すメッセージをただのお題目で終わらせないためには、その実現に向けた施策をセットで検討・実施することが重要です。その際、施策を実施する意図、特にメッセージとの関連性をしっかりと社員に説明することで、それらの施策の効果性も高まるでしょう。
もし今後、新たなメッセージを打ち出すことを予定されているのであれば、ぜひ参考にしてみてください。
執筆者
田中 宏明
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職のシンクタンクでは社員モチベーションの調査研究に従事。数多くのクライアントと接するなかで、社員の意識改善、さらには経営課題の解決において人事制度が果たす役割の重要性を実感し、新経営サービスに入社。 個人が持てる力を最大限発揮できる組織づくりに繋がる人事制度の策定・改善を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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