管理者になりたくない!

最近、経営者や人事担当者からよく聞くのが、
「うちの社員は、管理職になりたがらない・・・」 という嘆きです。
 
その原因を考えたとき、真っ先に出てくるのが、
「給料が割りに合わない」 というもの。
役職手当はつくものの、時間外手当がなくなれば手取りとしてはトントンか、もしかしたら減ってしまう、という給与体系になっている会社は、今でも多くあります。
 
確かに、これも不人気の一つの要因かもしれませんが、本質的にはもっと深いところに原因があると見ています。
 
管理職不人気の原因
1.結果が出ずに責任を問われることが多い
 
経済状態が不安定な中、何をやっても失敗する確率が高いのが今の世の中です。 ただでさえ、管理職になったとたんにそれまでの”過保護状態”から一変し、経営からも下からも、 「管理職とは当然こうあるべき」というような責任論の集中砲火を浴びている最中に、 自分なりに頑張るものの、一向に芳しくない結果の責任を問われるのは相当辛い状態です。
 
2.上下間の人間関係というものに慣れていない
 
昔のように、体育会系組織で上下関係を学んでいたり、自分が部下だった頃に、師弟関係に近いような濃密な人間関係の中で上司から指導を受けてきた人は少数派でしょう。
そんな中で、いざ上司という立場にたち、指導をするといっても、部下に何をしていいのかイメージできない人がたくさんいます。結局、人は自分がしてもらった範囲でしかイメージはできないものです。
このような人が、部下の指導や育成を押し付けられても、やる気はあったとしても結果が伴わず、苦痛やストレスだけが生み出されることになります。
 
3.仕事の増加・複雑化・専門化
 
例えば、かつては「製品の横流し(伝票処理)」をしていればよかったという某商社の業務は、今では物流管理から品質管理まで、より高度で複雑な業務を取引先から求められています。 これら広範で高度な業務全般を取りしきることは、今までのその業務の経験の無いマネージャーにとっては至難の業です。
 
会社がとりうるスタンス・対策
以上のような原因・背景を理解したうえで、会社として管理職を育成するためのスタンス・対策を、いくつか提言します。
 
1.いきなり管理職に多くを求めすぎない
 
本人も登用を意気に感じ、責任を背負い込むことが「美談」となりがちな風土がありますが、それだけで全て成功するほど甘いものではありません。初めからすんなりマネジメントができる人はそもそも少数であり、それよりもいかに失敗から学んでいくかが大事であり、会社としてもそのプロセスを「見守ってあげる」ことが必要です。
 
2.会社から資源を投入する
 
何の武器も与えずに「成功しろ」というのは無理難題です。
特に辛いのが、人材面でのサポートが薄く「孤軍奮闘」を強いられるケースです。できれば、優秀な補佐役を下につけるとか、自律的に動ける人を何人か置いて、マネジメント負担を軽減するなどの支援が必要です。
 
当然、人材が手薄でそれが困難な会社はたくさんあります。それ以外の支援の切り口として、例えば、
「経営者からのビジョンや理念を浸透させる」 ことも、それで部下の動き方に方向性が生み出されるのであれば、重要な支援内容といえます。
 
3.予備役期間を設ける
 
これは、キャリアパスや資格等級制度の領域の話ですが、一般職と管理職の間に「監督職」のようなものを置いて、擬似マネジメントトレーニングをさせるというものです。最近でも、トヨタが「係長職」を復活させるというニュースが報じられていましたが、それと同じ考え方です。
一般職と管理職の違いは、「組合員」と「非組合員」の違いでもあります。片や「労働者」としての保護下にある立場から、管理職になったとたん「経営側」の立場として多くの責任を負うことになります。どうも、その環境変化が急激であり、一般職としては優秀だった人がつぶれていくケースを多く見てきました。やはり人間にも、何らかの「慣らし運転期間」は必要でしょう。
 
いずれにせよ、「管理者としての責任論」だけを振り回すのでなく、「管理職者自体も”育成対象”である」という認識を持って、会社がサポートしていく仕組み、姿勢が必要です。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー

バックナンバーはありません