ヒトと組織の戦略に『パーパス』を活用する④
戦略的人事
■企業がパーパスを策定し、機能させた場合のメリットについて(その3)
前回に続き、企業として共感を生み出すことのできる『パーパス(purpose)』があることによって生まれる7つのメリットについて、今回は3つ目と4つ目について解説していきます。
3.社員モチベーションを喚起し、組織への共感、ロイヤリティを生み出すことができる
会社の『パーパス(purpose)』が顧客や市場、社会に対してどのように役立つのかを示し、『パーパス(purpose)』の意義について社員側の理解が深まるほど、社員モチベーションや組織への共感、ロイヤリティを生み出すことができるようになります。
①前回のブログでも述べましたが、社員が共通の軸を認識し、共通軸をふまえて協働できる組織は、社内におけるヒトとヒトとの信頼関係も良好なものになりやすくなります。
そして、組織内における信頼関係が良好であれば、近年、盛んに取り上げられている「心理的安全性」も高まりやすくなります。
様々なモチベーションの研究や調査結果からも、組織に対する信頼感が高まるほど、そこで働く社員モチベーションも高くなる傾向があります。
②また、なんのために企業活動を行っているのか?自身の仕事が顧客や社会にとってもどのような部分で役立つことができるのか?という企業活動の意味を明確にすることで、社員のモチベーションが高まったり、企業活動への共感が生まれやすくなります。
なぜなら、人間は意味を求める動物であるからです。人間は意味を感じるものに対してはモチベーションが高まり、意味を感じないものに対してはモチベーションが湧きにくいものです。そして、環境や状況が厳しいときほど自身が取り組むことに対して意味を見つけている人や組織が強いことも事実です。
4.意思決定やコミュニケーションスピードが上がる
『パーパス(purpose)』が組織内の意思疎通や判断の際の共通軸として機能するようになると、多様な人材が集う組織内の意思疎通がスムーズになります。
『パーパス(purpose)』があることによって、意思決定やコミュニケーションがスムーズになり、様々なロスやトラブルの減少にもつながっていきます。
今後の企業経営においては、現場の様々な情報がスピーディーにトップまであがり、素早い意思決定のもと組織が一丸となって動くことはこれまで以上に重要なテーマとなってくるでしょう。
市場環境もめまぐるしく変化し、情報伝達のスピードもどんどん速くなる現在、コミュニケーションや情報共有に時間がかかり、結果として、判断・意思決定スピードが遅い組織はそれだけでも致命的な損失を被りやすくなるリスクを持っているといえます。
企業の意思決定についての事例では、企業理念やミッションへの取り組みで有名なジョンソン・エンド・ジョンソン社がかつて大きな危機に直面したとき、企業理念に基づき迅速な意思決定と危機対応を行った事例が有名です。(自社製品に異物が混入され、社会的に大きな事件となった際に企業理念をもとに判断し、迅速な危機対応を行った事例。詳細は「タイレノール事件」などで検索してください)。
事件が起こったのは1982年ですが。当時は社内にもこのような事件が発生した際の緊急時の対応マニュアルや対応ルールなどは整備されていなかったそうです。当時の社長も事件が発生した際に動揺はしたようですが、最終的な意思決定をする際に、「日頃から徹底していた自分たちの経営理念(Our Credo)をもとに判断しよう!」と決断したそうです。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社の経営理念に基づく素早い意思決定は、トラブルを解決しただけでなく、結果として企業としての「ブランド・信頼性」そのものを回復させ(むしろ高め)、業績をも回復することへとつながりました。
このように、企業が突発的なトラブルに出会った際にも『パーパス(purpose)』が判断軸として組織内に共有されていることで、意思決定や情報共有がスムーズになり、スピーディーになっていきます。今後の経営環境を鑑みても、『パーパス(purpose)』の共有はますます大切なテーマとなってくることと思います。
次回は、5番目の「企業としての独自性が文化として定着する(フィロソフィーが定着する)」メリットについて紹介したいと思います。
執筆者
花房 孝雄
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)
リクルートグループにて、社員の教育支援に従事。その後、大手コンサルティング会社にて業績改善のためのマーケティング戦略構築などの支援業務に従事。現在は新経営サービスにて大学の研究室、人材アセスメント機関などとの連携による組織開発コンサルティングを実施中。
主な取り組みとして、人的資源管理研究における最新知見を背景とした「信頼」による組織マネジメントや企業ビジョンを構造的に機能させるビジョン浸透コンサルティングを展開中。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。