“仕事主義”の人事制度が浸透しづらい理由②

前回のブログでは、”仕事主義(=職務・役割主義)”の人事制度が日本企業でなぜ浸透しづらいのか、その理由の1つを解説しました。
今回のブログでは、筆者が考える3つの理由のうち、2つ目について具体的な解説を行いたいと思います。
  
日本企業において、”仕事主義”の人事制度が浸透しづらい2つ目の理由は、日本では「定期的な昇給や昇格が”文化”として根付いてしまっている(≒上がって当たり前という考え方・意識がある)」という点です。
 
日本企業の多くが採用してきた(かつ現在でも採用している)「年功型」や「能力型」の人事制度では、業績が非常に悪い企業を除けば、毎年の昇給というのは当たり前のように行われます。年齢給や勤続給であれば自動的に昇給していきますし、能力給でもよほど評価が悪くなければ多少は昇給していくというのが、日本企業における賃金制度の特徴です。
  
また、等級ランクが上位にアップする「昇格(昇級)」についても、同様のことが言えます。管理職の手前の等級あたりまでは、社員ごとに昇格スピードの違いはあっても、一定期間が経過すれば上位等級に昇格させるといった運用を行う日本企業は、非常に多いのではないでしょうか。
  
このように、多くの日本企業において、「毎年の昇給」や「一定期間ごとの昇格」というのは、既に一種の”文化”として根付いています。例えば、弊社では人事制度の運用支援を数多く実施していますが、昇格決定に関して経営者や経営陣の方と話しをしていると、「●●さんは確かに評価は少しよくないが、そろそろ昇格させてあげないとやる気をなくすのでは」といった発言が結構な頻度で出てきます。また、経営者・経営陣はそこまで思っていなくても、現場の上司/管理職が自分の部下について「そろそろ昇格させたい」という要望を人事サイドに上げてくること(いわゆる「昇格圧力」)は枚挙に暇がありません。
  
一方、”仕事主義”の人事制度の下では、職務主義であろうが役割主義であろうが、担当する仕事が上位等級の職務/役割に変更とならない限り、基本的に昇格することはありません。勤続年数を重ねたり能力がアップしたりしても、上位の職務や役割に就かない限りは昇格できないということです。なぜなら、仕事主義の人事制度では、”実際に担っている職務・役割”で処遇を決定するからです。
 
また、”仕事主義”の人事制度では、昇給についても同じことが言えます。すなわち、同じ職務や役割を続けていると、一般的には数年間で昇給の頭打ちが来ます。仕事の価値や難易度に対して賃金を支払う仕組みであるため、同じ仕事をしている限りは賃金を上げ続ける必要がないからです。年功型・能力型の人事制度のように、同じ等級の中でも長きにわたって(だらだらと)昇給していくというのは、基本的にはあり得ません。
  
従って、昇給や昇格が至極当たり前になってしまっている日本企業において、これまでとは真逆の「仕事が変わらない限り昇給や昇格はしない」という制度を導入しようとしても、社員の理解を極めて得にくいという壁に直面してしまいます。この辺りが大きなハードルになって、仕事主義の人事制度を導入することに躊躇してしまう日本企業が依然として多いのです。
 
また、先ほどの事例からも分かるように、社員だけでなく経営者についても、”仕事主義”人事制度の導入・運用に踏み切れないケースが多々あります。実際、経営者の意向に基づき”役割主義”人事制度の導入を検討している企業で打ち合わせしていても、なぜか経営者の方から「ある程度の年数が経てば、役割等級であっても昇格させたい」といった”矛盾”をはらんだ発言が出てくるケースがあります。要は、理想的には役割主義を採用したいのでしょうが、根っこの部分ではこれまでの昇格文化に経営者自身もかなり引き摺られてしまっているのです。
 
これまでの年功型・能力型の人事制度から、仕事主義(=職務・役割主義)の人事制度に真の意味で切り替えるためには、日本企業の社員にも経営者にも深く根付いている「処遇は少しずつでも上がっていくものだ」という考え方を払拭することが必要だということです。当然、長きにわたって形成されてきた考え方や意識、その結果としての文化を変えるというのは、簡単なことではありません。だからこそ、日本企業では本当の”仕事主義”人事制度がなかなか浸透しないのです。
 
次回のブログでは、「仕事主義」の人事制度が日本企業で浸透しづらい3つ目の理由について、具体的な解説を行いたいと思います。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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