「給与・賞与・退職金」の構成が当たり前ではなくなる時代
賃金制度
大企業を中心に、「賞与制度廃止」「退職金制度廃止」、あるいは「定年の実質廃止」といった事例を目にする機会が多くなってきました。日本企業では従来、60歳定年制を前提として、賃金制度としては「給与・賞与・退職金」の3本立て構成が当たり前であり、今も大半の企業ではその形が維持されていますが、ここ数年で一気に変化の兆しが出てきました。
中小企業においても、いきなり「廃止」とまではいかないまでも、「賞与や退職金の月給への振り替え」や、「65歳への定年延長」といった形で、段階的に構造改革を進めている企業は少なくありませんし、今も後確実に増えてくることは間違いないでしょう。特に近年は度重なる賃上げへの影響が中小企業経営に重くのしかかっており、いよいよ賃上げ余力がなくなってきた、といった経営者の声も聞かれます。この点、日本の中小企業では元々、「固定給は高くないが」「利益が出た分は賞与で安定的に支給し」「長年の貢献は退職金で報いる」といった形で、給与型ではなく、賞与・退職金型にウェイトを置いている企業が少なくありませんでした。そうした企業が、これを機に賃金構成と配分を「給与型」に変更していこうとすることはある意味自然な流れであり、時代感にマッチしているとも言えます。
「給与・賞与・退職金・定年」を一体として見直す
ただ、「月給型」への変更は必然的に固定費の上昇を招きますので、中小企業経営においては特に、短期的なリスク要因となります。このあたりを踏まえて制度設計を行う必要がありますし、人事制度を通じた人材活用の面でも出口戦略を具体的に構築しておく視点が欠かせません。例えば、若手の賃金を大幅に引き上げ、採用を強化することで5~10年先の主力人員を確保する、あるいは定年を引き上げつつシニア層の賃金を引き上げ、ベテラン技術者が活躍できる期間を延ばすことで人員不足に対応する、といった具合です。中小企業では特に、各制度を断片的に見直すのではなく、「給与・賞与・退職金・定年」を一体として見直す視点が今後求められるでしょう。
尚、「賞与や退職金の月給化」は一つのトレンドとして今後も実施する企業が増えてくることと思われますが、それぞれのメリット・デメリットを明確に把握した上で、「自社にとってメリットが大きいかどうか」「反対にデメリットは享受しうるレベルなのか」といったことを実態に照らして精査することが欠かせません。
一般的に考えられるメリット・デメリットの例を下記に記載しますので、自社にとってどの程度当てはまるのかを一度考えてみられてはいかがでしょうか。
(1)給与中心構成のメリット・デメリット(一例)
| メリット | ①社員の採用強化に直結する
②物価上昇への対応を含め、社員生活の安定に繋がる ③結果として、社員の定着にも繋がる |
| デメリット | ①短期的にも、中長期的にも人件費負担が大きく経営リスクとなりうる
→基本給に連動する賃金の仕組を持っている企業ほど負担が大きい ②若年層を中心とした賃上げが、中堅層以上との賃金格差の歪を生む ③社会保険料負担が上昇することで手取り減少に繋がる場合がある 等 |
(2)「賞与の月給化」に関するメリット・デメリット(一例)
| メリット | ①社員の採用強化に繋がる
・求職者の重要な判断基準となる月給水準を引き上げられる ②社員の定着強化に繋がる ・収入が安定することで、生活設計がしやすくなる ③人件費高騰の回避 ・単純な賃上げではなく、構成の変更で対応できる |
| デメリット | ①変動費の固定費化
・業績変動時に人件費コストを調整する機能が低下する ②賞与面での魅力の低下 ・月給はすぐに社員にとって「当たり前」になる。月給化により賞与 水準が他社より低くなると「賞与が低い会社」と認識されてしまう |
(3)「退職金の月給化」に関するメリット・デメリット(一例)
| メリット | ①退職時のキャッシュアウト平準化
・月給化して在職中に分散すれば、退職時の支出を抑えられる ②採用・定着強化に繋がる ・後払いではなく、「今の貢献」に対する還元を明確に打ち出せる |
| デメリット | ①税控除が受けられず、社会保険料等の負担も増える
・退職所得控除が受けられなくなることと、給与化により社会保険料 の負担も増える ②長期勤続を促す仕組みが弱くなる ・退職金制度の最大の狙いである「長期勤続へのインセンティブ機 能」が弱くなる |
以上
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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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