年功序列からの脱却!早期昇格を動機づける給与テーブル設計

昨今は人手不足による採用難のため、人材の採用・定着が恒常的な課題となっています。
特に、現在の人事制度が年功序列型である場合、
・応募者からネガティブな印象を持たれる
・若手社員から、パフォーマンスに対する給与水準に不満を抱かれる
という可能性があります。
実際に筆者も、様々な経営者や人事担当者とお話しをするなかで「時代に合わせた人事制度にしたい」「実力に応じて給与を支払う仕組みにしたい」という声を多く頂戴しています。
 
ただし、年功序列からの脱却といっても、思い切って実力主義に改定した場合、例えば以下のような事態に繋がるリスクも考えられます。
・定型業務に従事するベテラン人材の昇給チャンスがなくなることで不満が生じ、モチベーションが低下する
・若手人材にとっても、年齢や勤務年数という「確実に積み上がるもの」が給与反映されなくなることで、将来への不安感や不透明さが増大する
 
そこで本稿では、年功要素の安定感を残しつつ、実力重視を無理なく取り入れる方法の一例として「重複型」・「ゾーン昇給方式」のテーブルを題材に検討ポイントを紹介します。
※賃金設計の基本はhttps://jinji.jp/knowhow-theme/wage-design-basic/をご覧ください。
 

「重複型」・「ゾーン昇給方式」のテーブル設計例

 
上記テーブルの例では、基準額は各等級の給与レンジの中心金額(ポリシーライン)であり、各等級の「標準的な給与額」として設計しています。
レンジ内では評価結果に応じて昇給額が上乗せされますが、給与が基準額を超える(ゾーンⅡに入る)と、同じ評価でも昇給ペースが遅くなります。上図の通りゾーンⅡは上位等級に重なっているため、上位等級に昇格できても基本給の水準は変わりません。基準額以下=ゾーンⅠ内で早く昇格できるほど、上位等級の下限額と現給与の差分が大きくなるため、その分昇格とともに基本給がアップします。
 
【テーブル設計時の検討ポイント】
 
①重複レンジの幅
上記例では、2等級のレンジ幅上限を3等級のゾーン1までとしています。レンジを重複させることで、仮に2等級に滞留する場合でも一定額までは昇給を可能とし、年功要素の安定感を残しています。ただし、年功要素の安定感を重視してレンジの重複幅を大きくし過ぎると、2等級でも3等級以上と同等の給与額に昇給できてしまうため、昇格モチベーションの低下や社内のパフォーマンスに対する給与水準の不公平感につながる恐れがあることには留意が必要です。同一等級の滞留者に対してどこまで昇給の余地を残すか、人事制度改定の目的と照らし合わせて検討いただければと思います。
 
②ゾーン方式のブレーキ(昇給減額)の度合い
上記例では、2等級のゾーンⅡは、年功要素の安定感を残すために上位等級の給与レンジを先取りしている位置づけのため、ゾーンⅠと比較して昇給金額を半分に設定しています。
ここで、昇給金額の設定は

・同一等級に滞留する場合に昇給金額を小さく設定する=ブレーキ度合いを大きくすると、給与レンジ上限に到達するまでの年数を確保できる

・同一等級に滞留する場合に昇給金額を大きく設定する=ブレーキ度合いを小さくすると、給与レンジ上限に到達するまでの年数が短くなる

というトレードオフの関係にあります。同一等級の滞留者に対して限られた昇給余地をどのように活用するか、人事制度改定の目的と照らし合わせて検討いただければと思います。
 
いかがでしたでしょうか。
今回は、「重複型」・「ゾーン昇給方式」を組み合わせることで、年功要素の安定感を残しつつ、実力重視を無理なく取り入れる給与設計をご紹介しました。
シンプルな積み上げ方式に比べると複雑に見えるかもしれませんが、滞留者の昇給を「認める」・「ストップする」以外に「ペースを緩める」ことができるのが利点です。
このように、賃金制度の方式を選ぶ際は「年功序列か実力主義か」といった二択ではなく、
それぞれの方式が給与の支払い方にどのように影響するかを具体的に描いて検討することをお勧めします。

執筆者

増田 あかり 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学卒業後、一社目は製造業で生産管理を経験。前職では大学生の就職支援に従事する中、人と仕事、人と組織の課題に向き合うことの難しさとやりがいを実感。より中長期的な視点で組織と人の成長を支援したいという想いから新経営サービスに入社、顧客の想いに寄り添うコンサルタントを目指し日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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