定年再雇用と退職金

先月8月29日、国会で審議されていた「改正高年齢者雇用安定法案」が可決されました。これにより来年の4月1日より、再雇用制度を導入企業は「原則65歳まで希望者全員再雇用」が適用されます。つまり、再雇用するかしないかの対象を選別する「再雇用基準」を撤廃し、心身の故障のある人を除き、希望者については65歳までの全員雇用が義務付けられるのです。
 
ただしこれには経過措置があり、施行時にすでに講じていた継続雇用制度の対象者基準に関しては、報酬比例部分相当の老齢厚生年金の支給年齢の引き上げに連動しながら段階的に適用が可能とされています。
 
一方、再雇用制度というのは従来どおり60歳定年でいったん正社員を退職扱いとしますので、退職金はそこで支払われることとなります。従業員側からみると、60歳で定年退職⇒退職金の受け取り⇒間をおかずに再雇用契約⇒65歳まで契約更新⇒本当のリタイヤ(年金生活) という流れになるものと思われます。
 
ここで受け取る退職金は、かつてのような悠々自適のリタイア生活とは程遠く、60歳からの5年間の無年金&再雇用期間の生活資金として活用するか、65歳以降の年金生活のために5年間運用するか、の選択となるでしょう。
 
このように考えると、企業年金(確定給付・確定拠出)であれば、60歳で老齢給付一時金として受け取ることも可能、そのまま置いといて65歳からの受取を選択し毎月一定額という形で年金給付を受けることも可能で、定年後の再雇用状態に応じて受給選択ができるという点では非常に相性がいいようです。
 
そこで、これからの再雇用制度においては、「再雇用後の処遇ルール」と「退職金給付額」の両方を見据えてセットで制度設計する視点が必要なのではないでしょうか。
 
つまり公的年金の支給開始年齢の引き上げとともに、それまでは再雇用後の仕事でいくら、企業年金の給付でいくら、というように、2つの組み合わせで処遇を考える時代に入ったように思います。いや、それはすでに60歳再雇用の前から始まっているのかもしれません。50歳~70歳くらいまでの20年間を見通し、従業員の生活を守る手腕が問われてきているのだといえます。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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