日本企業で職種別賃金が進まない理由 1

「仕事」より「人」が優先される日本の賃金
欧米といっても、国や企業によって詳細は異なりますが、基本的に賃金は職務・職種によって決定するのが普通です。
 
日本で馴染みの深い年齢給や家族手当、住宅手当といった発想は、ほとんどありません。その人が何歳であろうが、子供が何人いようが、仕事内容とは関係なく、基本的に賃金に影響させることはないのです。アメリカの企業などでは、通勤手当すらないケースも珍しくありません。どこから通勤しようと仕事には関係ない、ということなのでしょう。
 
>  すなわち、日本では『人』に対して給与が決まってきたのに対して、欧米では『仕事』に対して決まる給与体系(=職務給)が一般的です。
 
職務給で重要なのは、職務を適切に評価するということです。職種や職務を区分し、それぞれの責任の重さや難易度、影響度の大きさといったことを判定し、値決めする。転職によるキャリアアップも活発なため、企業は同業種や同地域における他社の給与水準を、日本以上に気にかける。他社より劣っていれば、優秀な人材を引き付けられない、と考えるからです。
 もちろん、日本でもパナソニックは、ソニーやNECの給与水準をチェックしているでしょうし、意識もしているでしょう。ただし、それは他社への転職を恐れてのことではありません。パナソニックの社員が、ソニーの方が少し高給だからという理由で、転職することはあまり考えられないからです。
 
一方、欧米は『仕事』によって賃金も異なるのですから、職種ごとに賃金水準が違うことも、ごく自然なこととなります。生産職より生産技術職の方が高給であったとしても、そのこと自体は当然のこととして受け止められる。より高給を望むなら、技術を勉強して生産技術職に異動させてもらうか、社内で叶わなければ、他社の生産技術職に応募すればいいのです。
 
インドや中国も職種別賃金
また、このようなことは先進国だけに限ったことではありません。成長著しい中国企業でも、営業職と技術職、事務職、生産職では、給与水準や給与体系は大きく異なるケースが多い。ただし、中国の場合は、都市部と地方では所得格差が著しく、地域別・職種別賃金といった方が適切かもしれません。
 
インドでは、IT技術者になれば、普通の仕事の何倍もの給与を得られるため、優秀な子どもの多くが情報工学系の大学を卒業し、ITエンジニアになることを目指します。なおかつ、国もそれを後押しします。日本がIT技術の分野で、インド・中国に追いつき、追いこされた背景には、このような事情があるのです。
 
このように見てみると、主要国のほとんどは、職務を中心に置いた賃金体系であることが分かります。
 
日本以外は、職種別賃金が主流の考え方であるといってもいいでしょう。
では、なぜ日本企業では、職種別賃金が浸透しないのでしょうか?
 
次回へ続く

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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