AIJ問題は何を投げかけたのか?

厚生年金基金の資産を運用するAIJ投資顧問による詐欺事件が発覚し、年金にたずさわる人だけでなく世間一般を驚かせる大きなニュースとなりました。「年金資産2,000億円が消失」「社会保険庁OBがコンサル指南」といった報道に加え、国会での追及に「だました認識はない」と開き直る社長の姿勢が国民感情に追い打ちをかけ、一時期は”年金不安”と”悪者追及”で持ちきりでした。
 
もちろんAIJ投資顧問は金融業としてのモラールに反する行為を行ったという点ではしかるべき社会的な制裁を受けるべきでしょう。ただ、その背景には「厚生年金基金」という時代に合わなくなった制度を依然として温存し、こうした会社につけ入るスキを与えてきた国の責任も大きいと言わざるを得ません。特に国の運営する厚生年金の一部を代行させ、その代わりに厚生年金基金を天下りポストとしてきた厚労省は、基金の問題にフタをせずに、具体的な解決策を提示してほしいと思います。
 
今回被害に遭った多くが、中小企業の業界団体などが設立した総合型の厚生年金基金です。厚生年金基金は「代行部分」を保全しなければならないために、安易な解散が許されず、株価低迷⇒運用損失⇒企業の穴埋め負担増⇒企業倒産(脱退)⇒残った企業の負担がさらに増加 という悪循環を繰り返します。「5年前に抜けていれば○百万の負担で済んだものを、今抜けるには○千万の抜け代が要る」という経営者の嘆きはリアルに伝わってきます。
 
実はこのような運用の悪化が経営のリスクとなる構造は、確定給付型の年金制度共通の特徴です。確定給付型の制度が全て悪いとは決していいませんが、経営のリスク許容度を超えた制度を持つことは断じて避けるべきだと考えます。たとえば、一部を中退共や確定拠出年金に移行する、一部を廃止して前払い化する、などリスクを軽減する方法は可能です。
 
経営者の皆さんには、再度自社の退職金制度そのものと、その財源の運用がどうなっているか、どのようなリスクが潜んでいるか、をしっかりと見極めてください。それが自社にAIJのような詐欺を寄せ付けない最大の防御策だといえます。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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