ジョブ・ローテーションによる人材の活性化

職種間や部門間の異動(ジョブ・ローテーション)を定期的に行うことにより、広い視野を身につけ全体最適が図れる幹部人材を育成する。 また自己申告や適性診断から、本人の適性や志向を踏まえたうえで異動・配置計画を練ることも必要である。
 
大企業と中小企業の人事管理のレベルの差は、このジョブ・ローテーションを機能させられるか否かの差によるところが大きい。中小企業では、そもそも「ジョブ・ローテーション」という発想自体が無かったり、異動と言っても、例えば退職による欠員補充や、現職で力を発揮できない社員をやむなく異動させる、といった場当たり的なものに終始している会社が多い。
 
大企業においては、社員一人ひとりの「育成計画」としてジョブ・ローテーションが位置づけられており、一見不向きな職種への異動も、長い目で見れば幹部育成の布石であったりする。大企業の社員は、同じ会社にいながら、様々な職種・職場を経験することができ、キャリアの幅を広げていくことができる。また、異動直後は瞬間的にそれまでのスキルが使えない状況に陥り、新たな能力開発に迫られたり、発想の転換を余儀なくされたり、しかるべき人に自ら教えを請いに行かざるをえなくなる。これらの事態は、本人にとってその時は苦痛を伴うことになるが、後から振り返れば、「あの時の経験・苦労によって一回り成長できた」と思えるような貴重な体験を得ることになる。ここまで意図したうえで、ジョブ・ローテーションを行っている会社も多い。
 
ちなみに、ジョブ・ローテーションは日本企業ならではの制度である。欧米ではビジネスマンは基本的に専門職であり、採用時点の職種から転換されることはまずない。日本企業内の調整機能の高さ、社内連携の濃さなどは、ジョブ・ローテーションという仕組みにより企業文化にまで高められたとも言える。
 
中小企業では、マンパワー不足や目先の損失を恐れ、配置転換に及び腰となる場合が多い。現場のほうが人事部門よりも発言力のある会社が多く、「今、彼に抜けられると困る」というような現場部門長からの意見が出ると、どうしても人を動かしづらい。中小企業でもジョブ・ローテーションを機能させている会社は、トップ(社長)が強引に押し通したり、実施数年前から方針を打ち出したり、象徴的な異動(例えばエースクラスの社員の異動)を見せながら異動に対するネガティブなイメージを打ち壊す、などの工夫をしている。実際に異動をしてみれば、当初懸念されたようなデメリット(売上が下がる、業務が混乱する)などの問題はさほど起こらないケースが多い。
 
それでもやはり異動は難しいという場合は、正規組織とは別にプロジェクトチームを作り、兼任という形で経験を積んでもらったり、「社内留学制度」と呼ばれる、出戻りを前提とした短期的な異動など手段により、幅広く事業を見通せるポジションや機会を提供することも可能である。 企業規模はともかくとして、人材や組織の質的なレベルでいわゆる「中小企業」の枠から抜け出すためにも、ジョブ・ローテーションは有効な人事施策である。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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