選択型・時短勤務制度とは ~多様な育児環境への対応~

厚生労働省「令和4年 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」の企業調査結果によると、
 

・育児のための短時間勤務制度の期間は、「3歳になるまで(法定どおり)」が55.5%、「⼩学校就学前まで」が21.9%

・正社員・職員の1⽇の設定勤務時間は、「6時間」が68.0%

 
という割合でした。

 

育児・介護休業法では、短時間勤務制度(所定労働時間の短縮措置)として、短時間労働者などの例外を除き、
 

・3歳未満の子を養育する従業員について、従業員が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けなければならない。

・短時間勤務制度は、1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)とする措置を含むものとしなければならない。

 
と決められていますので、法律に沿って「3歳になるまで、6時間」と設定している会社が、スタンダードということになるのでしょう。

 

厚生労働省の「育児・介護休業等に関する規則の規定例」が、

 

(育児短時間勤務)

3歳に満たない子を養育する従業員は、申し出ることにより、就業規則第◯条の所定労働時間について、以下のように変更することができる。

所定労働時間を午前9時から午後4時まで(うち休憩時間は、午前12時から午後1時までの1時間とする。)の6時間とする(1歳に満たない子を育てる女性従業員は更に別途30分ずつ2回の育児時間を請求することができる。)。

 

となっていることも、上記のような調査結果を生み出す一因であると考えられます。

 

更に、取得できる期間を極力短くし、勤務時間も6時間と決めておけば、労務管理の手間が最小限に抑えられるということもあるでしょう。

 

しかし、これらはいずれも企業側の視点です。「法律は守らないといけない」「できるだけ時短勤務は少なくしたい」「勤務時間も統一しておいた方が管理しやすい」といったニーズです。

 

一方、育児時短制度を活用する側の社員視点で捉えれば、異なった景色が見えてきます。たとえば、社員視点の制度ニーズとは、次のようなものです。

 

「子供が3歳になって、いきなりフルタイム勤務は厳しい」「せめて小学校入学まで、できれば1年生終了か低学年の間は利用できるようにして欲しい」「妊娠中も満員電車通勤を避けたいので、時短勤務を認めて欲しい」といった期間に対する要望、「保育園が遠方のため、5.5時間以下にしたい」「できるだけ収入は下げたくないので、朝だけ30分の時短を認めて欲しい」「○曜日と△曜日は時短で、それ以外はフルタイムで」など勤務時間に対する要望などさまざまです。社員によって、通勤や保育所、家族構成などの環境が異なるため、時短へのニーズも多様ということになります。

 

これら社員ニーズの多様化は、介護についても同様のことが言えます。

 

そこで、「期間・時間選択型の時短勤務制度」の導入を検討していただきたいと考えます。たとえば、
 
・期間は、妊娠判明時から子供が小学校低学年まで取得可(介護は、介護必要期間)

・勤務時間は、1日5~8時間の範囲で、30分単位で設定(曜日による設定も可)

・選択見直しのタイミングは原則年1回(もしくは年2回)
 
といった柔軟な制度です。

 

もちろん、職種や職場によって、導入の難易度は異なるでしょう。管理上の手間が、増えるかもしれません。ただ、多くの会社が、パート社員や派遣社員を活用・管理していることを考えれば、制度改定のハードルが高いとは思えません。むしろクリアすべき課題は、職場の雰囲気や他者への気兼ねといった、目に見えない問題となるでしょう。時短勤務者以外の社員との関係性です。

 

そのための対策としては、三井住友海上火災保険株式会社が導入した「育休職場応援手当」がヒントになるかもしれません。この手当は、社員が育児休業を取る際に、職場の人数規模等に応じて育児休業取得者本人を除く職場全員に、3,000円~最大100,000円の一時金「育休職場応援手当(祝い金)」を給付するしくみです。育児中の社員だけでなく、会社全体で育児を支援する風土を醸成するのが狙いです。このしくみを時短勤務者が居る職場用にアレンジするのはどうでしょうか。仮に、育休や時短勤務で給与や賞与が下がった分、人員補充や残業代増加を伴わずにカバーできれば、手当や賞与加算のための原資が生じることになります。

 

もちろん、すでに気兼ねすることなく育休や時短勤務が取得できる会社もあるでしょうし、手当など金銭以外の風土改善策も考えられます。

 

いずれにせよ、選択型・時短勤務制度の導入には、制度改善と風土改善の両方が必要ということです。これらが上手く揃えば、社員の定着だけでなく、人材採用にも効果があると考えます。是非一度、社内で検討してみてはいかがでしょうか。

執筆者

山口 俊一 
(代表取締役社長)

人事コンサルタントとして20年以上の経験をもち、多くの企業の人事・賃金制度改革を支援。
人事戦略研究所を立ち上げ、一部上場企業から中堅・中小企業に至るまで、あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛ける。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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