我が社にも賃上げが必要? 具体的方法② ~賃金UPのアプローチを考える~
賃金制度
前稿では、目的や対象者に応じて相応しい手段を選択していくためのアプローチについて紹介しました。本稿では、賃上げの手段を定めた上で、金額加算 or 率加算どちらで賃上げするのか、賃金UPのアプローチについて触れていきたいと思います。
どの程度の賃上げを行うかは、金額もしくは率で表現することになります(例えば、金額であれば5,000円の賃上げ、率であれば2.0%の賃上げといったイメージ)。階層一律に賃上げを行う場合を例に、それぞれのアプローチにおいてどのような特徴があるのかを確認していきたいと思います。
下記表は、ある会社の基本給テーブルを例に、階層一律に5,000円のベースアップを行った場合の変化を示しています。
表下部の「加算金額」は設定通り階層一律に5,000円となっていますが、「加算率」でみると、上位等級(基本給水準が高い社員)になる程、逓減していることが分かります。
同じく下記表は、ある会社の基本給テーブルを例に、階層一律に2.0%のベースアップを行った場合の変化を示しています。
金額加算とは対照的に、「加算額」は上位等級(基本給水準が高い社員)になる程、逓増していくことが分かります。
これらの特徴を踏まえた結論として、
①賃上げ対象のメインターゲットを下位等級層(例えば20代~30代の若年層)とするのであれば金額加算が合理的 ②賃上げ対象のメインターゲットを上位等級層(例えば40代以上のベテラン層)とするのであれば率加算が合理的 |
ということが言えるでしょう。
加えて、金額加算と率加算における加算後の基本給テーブルに着目すると、前者は各等級の基本給レンジは現行と同じ幅となりますが、後者は各等級の基本給レンジの幅が広がり、例のようにレンジ重複型のテーブルであれば、重複幅も拡大することになります。
上記特徴を踏まえると、
③基本給レンジの構造(レンジの幅、レンジの重複幅、レンジの階差幅等)を変えたくないのであれば金額加算が合理的
|
ということも言えるでしょう。なお、基本給を手段とした例を確認しましたが、これは手段が手当や賞与等の一時金であったとしても、上位等級になる程、月給水準や賞与水準が高くなることを踏まえると、③を除いて同様の結論が言えます。
ここまで階層一律に賃上げする場合を例に、金額加算 or 率加算の特徴について触れてきました。賃上げの目的によっては、階層に応じて濃淡を設定して賃上げを実施するケースも想定されますが、原則の考え方は同じです。イレギュラーな設定となる階層を除いて、どのような賃上げを実現したいのかをベースに金額加算 or 率加算を判断していくことが肝要です。また、階層に応じて濃淡を設定して賃上げを実施する場合は、基本給レンジの構造が大きく変わる恐れがあることにも留意が必要です。例えば、等級間のレンジの重複が許容範囲を超えて大きくなっていないか、等級間のレンジの開きが想定以上に大きくなっていないか等、注意して確認していきましょう。
以上、本稿では、賃上げの手段を定めた上で、金額加算 or 率加算どちらで賃上げするのか、賃金UPのアプローチについて紹介しました。次稿では、最終的な加算額 or 加算率を決定していくために、賃上げの手段に応じたコストシミュレーションの勘所について触れていきたいと思います。
執筆者
辻 輝章
(人事戦略研究所 コンサルタント)
自らの調査・分析を活用し、顧客の想いを実現に導くことをモットーに、国内大手証券会社にてリテール営業に従事する。様々な企業と関わる中で、社員が自ら活き活きと行動できる企業は力強いことを体感。"人(組織)"という経営資源の重要性に着目し、新経営サービスに入社する。
第一線での営業経験を活かして、顧客企業にどっぷりと入り込むことを得意とする。企業が抱える問題の本質を見極め、企業に根付くソリューションを追及することで、"人(組織)"の活性化に繋がる実践的な人事制度構築を支援している。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。