職務分析について ~職務記述書の作成方法~

数回前のブログでは、「ジョブ(職務)の定義」について、筆者が最も一般的・基本的であると考える内容を解説しました。その時の解説内容を前提とした上で、今回のブログでは、いわゆる「職務分析」について解説していきたいと思います。言うまでもなく、ジョブ型(職務型)の人事制度の導入に向けては、当然、一人ひとりの「ジョブ(職務)」について、その内容やレベル・価値等を明らかにする必要があります。今回のブログで解説する「職務分析」とは、そのうちの前者、すなわち「ジョブ(職務)の“内容”を明らかにする」ための取り組みになります。

 

改めて「職務分析」とは、社員一人ひとりが担当している仕事、すなわち「職務(ジョブ)」について、仕事として具体的に遂行する中身(=業務内容)や、そこで求められる結果や責任、またその仕事をする上で必要となる能力などを(可能な限り)具体性を持って明らかにする作業を指します。そして、職務分析を通じて具体化・明文化された職務の内容等については、「職務記述書」というアウトプットに落とし込むことになります。この「職務記述書」とは、その名の通り、一つ一つの仕事(職務)について、具体的な業務内容や業務責任、必要な能力等を文書化した資料です。欧米では、「ジョブディスクリプション」と呼ばれており、職務等級や職務給の決定、転職者の採用などに際して重要な資料になります。数年前まで、この「ジョブディスクリプション」という言葉は、日本において(一部の人事担当者や人事コンサルタント等を除き)決してメジャーではありませんでしたが、ここ最近のジョブ型への注目の高まりと併せて、この「ジョブディスクリプション」という言葉や内容についての認知度も、飛躍的に高まりました。

 

この「職務分析」ですが、進め方としては大きく4つのステップに分かれます。なお、以下のステップごとの作業については、主として人事担当者が職務分析や記述書作成を行うことを前提にしています。

まず、最初のステップでは、職務分析の対象とする職務を洗い出します。基本的な考え方としては、社員全員について各人が担当している仕事(職務)を対象とすべきです。ただ、100名、200名くらいまでの会社であればそこまで作業負荷がかかりませんが、それ以上の社員規模になると大きな作業負荷になります。また、社員数が多くなるほど、複数の社員が類似性の高い仕事を担当しているケースも珍しくはないでしょう。そのような場合、勤務場所の違いや取り扱い製品/商品が違うという程度の内容差異であれば、職務分析の対象としては「同一」とみなして問題ないと考えます。従って、実際の分析作業に取り組むにあたっては、全社員の職務を対象とはせず、類似性の高い仕事同士はその一つのみを分析対象とすることでもOKです。

分析対象の職務が決まれば、2番目のステップとして、一つ一つの仕事(職務)について、業務内容や業務責任等に関する具体的な情報を、人事担当者が各部署の業務担当者から収集します。いわゆる「職務調査」です。調査方法としては幾つかありますが、手間はかかるものの、効果性等を考えると「アンケート調査とヒアリング」の双方を実施することをお勧めします。具体的には、まずはそれぞれの仕事(職務)を担当している社員(業務担当者)又はその上司に対して、職務内容に関する情報を調査表(アンケート表)に記入してもらいます。その後、不明点や掘り下げが必要な部分について、記入済みのアンケートに基づいて人事担当者が記入者に対してヒアリングを行います。

続いて、3つ目のステップとして「職務記述書(ジョブディスクリプション)」の作成を行います。具体的には、アンケート調査の記載内容とヒアリング内容に基づき、人事担当者が職務記述書に落とし込んでいきます。なお、職務記述書は複数の「項目立て」で記載内容を分けると、見やすい(かつその後の職務評価もしやすい)です。

最後の4つ目のステップでは、人事担当者が作成した「職務記述書」の内容について、各部署の業務担当者やその上司にチェックをしてもらい、最終化に向けて必要な修正等を行います。このような流れで、職務分析の最終アウトプットである「職務記述書」を完成させることになります。

 

人事担当者が各部署の職務記述書を個別に作成するのは大変だ・・・という意見もあるかと思います。ただ、実際には、「アンケート調査」のフォームと「職務記述書」の内容をほぼ同一にしておけば、記述内容の大半は各部署の業務担当者もしくはその上司が記載することになりますので、人事担当者の作業量がそこまで多くなることはありません(※もちろん、職務調査の対象職務数、すなわち職務記述書の作成枚数にもよりますが)。

各部署の業務担当者やその上司に、職務記述書の作成プロセスのほとんどを任せた場合、人事担当者の作業負荷は大きく減りますが、一方で記載内容における“ばらつき”の程度や発生頻度が大きくなってしまいます。そのような職務記述書の下では、職務ごとの職務レベルや職務価値について、公平性を持って判定すること(=職務評価)が非常に難しくなります。従って、人事担当者が作成プロセスに積極的に関与した方が、時間はかかっても結果的には“使える”職務記述書ができあがります。

 

なお、弊社人事戦略研究所のホームページ内において、職務記述書(ジョブディスクリプション)のサンプルを公開(https://jinji.jp/samplesheet/job-discription/)していますので、参考にしていただければ幸いです。

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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