AI時代、上司のマネジメントはどう変わる?
AI活用で管理職に求められる役割
教育・能力開発
生成AIの普及によって、仕事の進め方が大きく変わり始めています。
メールの文章を作る、情報を調べる、議事録を取り要約する、といった身近なものから、資料をまとめる、データを分析する、良質なアイデアを出す、といった高度なものまで様々です。
これまで人が時間をかけて行っていた仕事の一部を、AIが短時間で代替できるようになります。企業でも「生成AIの積極活用」「AIによる生産性向上」をテーマとした動きが広がっています。
ここで一つ考えておきたいことがあります。
AIによって仕事が変わるなら、上司のマネジメントも変わる必要があるのではないか。
これまでの管理職は、部下に仕事を教え、進捗を確認し、成果を評価し、問題があれば解決するという役割を担ってきました。ところが、AIによって仕事の進め方そのものが変わるなら、「上司が管理すべき何か」も変わってきます。これからの管理職には、AIを使えることだけではなく、AIを活用する部下をどうマネジメントするのかという視点が求められます。
役割の変化
「業務の量の管理」から「業務の質の管理」へ
AIによって最も変わりやすいのが、仕事にかかる時間です。例えば、これまで3時間かかっていた資料作成を、生成AIを使って1時間で完成させることができたりします。ここで上司が「この仕事には3時間かかるはずだ」と考えて時間を見積もってしまうと、余剰時間が多く発生してしまい、AI活用のメリットを十分に享受することができません。AI活用による効率化の程度を把握する必要があります。
加えて、AI時代はこれまで以上に「量」ではなく「質」が重要になります。先程の例で言うなら、残った2時間を何に使うべきか、のマネジメントです。より多くの仕事を処理させるべきか、はたまた、その資料の付加価値をより高くすべく時間をかけさせるべきか。非常に高度なマネジメントが求められることになります。
「答えを教える上司」から「問いを与える上司」へ
AIは様々な質問に答えてくれます。そのため、これまで上司が持っていた知識や経験の一部は、AIによって代替されることとなります。そうなると、上司の価値は「答えを知っていること」だけではなくなります。
例えば部下がAIを使って企画書を作ってきたとします。そこで、「よくできているね」で終わるのではなく、「この提案で顧客は本当に困りごとを解決できるだろうか?」「AIが出していない視点はないだろうか?」「この数字の根拠は確認した?」と問いかける。こうした対話によって、部下自身に考えさせることができます。
AIから答えを得ることが簡単になるほど、「正しい答えを与える上司」より「良い問いを投げかける上司」の価値が高まります。
「仕事の手順を教える」から「仕事の目的を示す」へ
AIを使いだすと、部下が上司に質問する内容も変わるかもしれません。これまでは「この仕事はどう進めればいいですか?」と聞いていた部下が、まずAIに質問するようになる可能性があります。特に、話しかけづらい上司であればなおさらです。そうなると、上司に求められる役割も変わります。
上司がすべての答えを知っている必要はありません。重要なのは、「この仕事の目的は何か」「どんな価値が提供できればいいのか」「何をもって目的を達成したと言えるのか」等を明確にすることです。
AIは与えられた条件から答えを作ることはできます。しかし、「何を目指すべきか」について、会社の経営方針や顧客との関係まで踏まえて決めることはできません。これからの上司には、細かな作業手順を教えることよりも、仕事の目的や期待する成果を示す能力がより重要になります。
実務において必要となること
管理職自身もAIを使ってみる
一般的に、一定の年齢になると新しいものを受け入れられなくなります。多くの管理職は、その「一定の年齢」にあたります。しかし、部下にAI活用を求めるのであれば、管理職自身もAIを使ってみる必要があります。例えば、
・マーケットの変化を多角的に分析する
・部下からの報告を要約する
・評価コメントの下書きを作る
といったことです。こうした業務にAIを使ってみることで、AIが得意なことと苦手なことが分かります。また、自分自身がAIを使った経験があれば、部下がどこで困るのかも理解しやすくなります。
「AIを使いなさい」と指示するだけではなく、管理職自身がAIを使いながら、自身の仕事の進め方を変えてみる。これもAI時代の管理職に求められる姿勢の一つとして必須となります。
部下とのコミュニケーションを重視する
AI時代には、上司と部下の面談の役割も変わっていくでしょう。業務上の情報確認や報告は、AIやデジタルツールによって効率化できるようになります。だからこそ、上司と部下が直接話す時間には、別の価値が求められます。
AIにできないことの一つが、人の行動を促すことだと言われています。「フォグ式行動モデル」というフレームをご存じでしょうか。人の行動を促すには、①動機、②実行能力、③きっかけ、の3つが必要、とされる考え方です。
①は、部下が何に困っているのか、何に関心があるのか等。
②は、行動に必要なハードルの低さ、必要なリソース等。
③は、承認活動、1on1ミーティング、日々の声かけ等。
これらを把握し、促すことができるのは、AIではなく上司です。今後は、益々ヒューマンスキルが求められることになります。
チーム全体を見る
AIの活用が個人単位で進むと、部下一人ひとりの生産性に大きく差が生まれます。
部下Aは、従来の仕事の進め方に固執し、生産性が上がらない。
部下Bは、AIを積極活用し、自身の生産性を大きく上げる。
部下Cは、チーム全体・業務全体の生産性を上げるべくAIを活用する。
これまでは、生産性の高い部下に依存するようなマネジメントでも問題ない場合が多くありました。しかし、部下Aのような部下有していない部門と、未だ有している部門とでは、チーム全体の生産性に大きな違いが出るのは明白です。加えて、部下Cのような部下を複数人有している部門と、有していない部門とでは、更に大きな違いになってくるでしょう。
重要となるのは、「AIを使っている/使っていない」で判断するのではなく、チーム全体としてどんな成果につながっているのかです。チーム全体を見ることが、より強く求められます。
管理職の仕事は、より高度化する
AIの活用により、これまで人が時間をかけて行ってきた仕事の多くが効率化されていきます。しかし、それは管理職の仕事が減ることを意味するわけではありません。むしろ、管理職に求められる仕事は、これまで以上に高度になっていきます。
こうやって考えると、AI活用は単なるITの延長ではないことが分かります。
AIによって仕事が変わる。
社員に求められる能力が変わる。
人材育成や評価の考え方が変わる。
当然、上司のマネジメントも変わる。
AIは、人事制度全体に関係するテーマです。だからこそ、「どのAIツールを導入するか」だけではなく、「AIによって、人間は何をすべきなのか」を考える。そこから、これからの管理職のあり方や、人事制度のあり方も見えてくるのではないでしょうか。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
