PEファンド・商社の投資先で進む人事制度改革
~M&A・企業統合を成功に導く実行体制と人事コンサルタント選定のポイント~
人事制度
近年、弊社・人事戦略研究所(株式会社新経営サービス)でも、PEファンドからのご紹介や、投資先企業における人事制度改革に関するご依頼が増えています。
PEファンドや総合商社による事業投資、事業承継を目的としたM&A、グループ内の事業分離、企業合併・統合などの場面では、財務や事業の改善とともに、「人」と「組織」をどう整えるかが重要なテーマになります。
これは、PEファンドや商社が関わる投資先だけの話ではありません。一般的なM&Aや企業統合においても、経営方針や組織体制が変わる一方で、人事制度や運用が従来のまま残っていることは少なくありません。その結果、社員が何を期待されているのか分からない、管理職ごとに評価や処遇に差が出る、優秀な人材が将来に不安を感じる、といった問題につながることがあります。
人事制度改革は、制度を新しくすること自体が目的ではありません。新たな経営方針のもとで、社員一人ひとりが役割を理解し、力を発揮できる組織をつくるための取組みです。
1.なぜ人事制度改革が必要になるのか
投資後やM&A後の企業には、売上拡大、収益性の改善、新規事業への取組み、組織運営の強化など、さまざまな変化が求められます。しかし、人事制度が過去の組織や働き方を前提につくられたままでは、経営が目指す方向と社員の行動がかみ合わなくなることがあります。
たとえば、次のような課題がよく見られます。
・組織再編を行ったものの、部門や管理職の役割・責任が曖昧である
・評価が上司の印象や慣行に左右され、会社として重視する成果や行動が伝わっていない
・昇給・賞与・手当の仕組みが複雑で、人件費を把握しにくい
・管理職の育成や部下との面談が十分に行われず、若手や中核人材が定着しにくい
・重要な人材の処遇や将来のキャリアが不透明で、離職の不安がある
こうした課題に対しては、役割に応じた等級、納得感のある評価、業績や貢献度を反映した報酬を、無理のない形で整えていくことが大切です。ただし、必ずしも大企業向けの複雑な制度を導入する必要はありません。企業の規模、業種、組織風土、成長段階に合った、分かりやすく運用できる制度であることが重要です。
2.まずは現状を正しく把握する
人事制度改革では、いきなり新しい制度案をつくるのではなく、現状を丁寧に確認することから始めます。
確認する内容は、就業規則、賃金・賞与・退職金の仕組みなどにとどまりません。組織図と実際の仕事の進め方が一致しているか、誰が意思決定を担っているか、管理職が機能しているか、人材の採用・定着にどのような課題があるかも見ていく必要があります。
特に重要なのは、経営幹部、部門長、営業責任者、技術者など、会社の成長を支える人材の状況です。事業を担う人材が誰なのか、役割に見合った処遇となっているか、将来に不安を感じていないかを把握することは、企業統合後の混乱や人材流出を防ぐうえでも欠かせません。
改革の初期段階では、組織図や役割分担の整理、人件費の確認、重要人材への対応、労務面の見直し、社員への説明など、優先順位の高いものから進めます。一度にすべてを変えようとせず、事業計画や現場の困りごとに直結するテーマから着手することが現実的です。
3.人事改革を進める体制づくり
人事制度は、制度案をつくっただけでは定着しません。経営者、人事担当者、現場の管理職が、それぞれの役割を理解しながら進めることが必要です。
たとえば、社長や経営陣は、「今後どのような会社を目指すのか」「社員に何を期待するのか」を明確に示します。人事部門は、制度設計やデータの整理、社員への説明、運用ルールの整備を担います。そして管理職は、評価面談、目標設定、部下育成を通じて、制度を日常のマネジメントに落とし込みます。
投資会社や親会社が関わる場合にも、現場の実情を踏まえた進め方が重要です。投資側が求める収益性や管理の水準と、投資先企業が大切にしてきた強みや企業文化を、どのように両立させるかを考える必要があります。
制度導入後も、人件費、採用・離職の状況、昇格・登用、評価結果の偏りなどを定期的に確認し、必要に応じて運用を見直すことが大切です。
4.人事コンサルタント選定のポイント
人事制度改革を外部に相談する場合、制度の知識だけでなく、自社の実情を理解しながら一緒に考えてくれるコンサルタントかどうかが重要です。
とりわけ中小企業では、大企業の制度をそのまま取り入れても、運用負荷が高くなったり、現場に定着しなかったりすることがあります。業種ごとの商慣行、職種ごとの働き方、人材構成、組織規模、経営者の考え方を踏まえた設計が求められます。
選定にあたっては、次の点を確認するとよいでしょう。
・自社と同程度の規模の企業や、同業・近い業種での支援経験があるか
・等級、評価、賃金・賞与などを、全体のつながりを考えて提案できるか
・新経営方針の期待事項を整理し、社員に分かりやすく伝える支援ができるか
・制度づくりだけでなく、管理職への説明や評価者研修などにも対応できるか
・制度を複雑にしすぎず、実際に運用できる仕組みを考えてくれるか
人事戦略研究所では、中小企業を中心に、多様な業種・組織規模の人事制度設計を支援してきました。そのため、一般論として制度を提示するのではなく、各社の事業内容、人材構成、組織風土、将来の事業計画を踏まえ、「その会社で無理なく運用できる人事制度」を一緒に考えることを大切にしています。
5.人事改革を持続的な成長につなげる
人事制度改革は、投資後やM&A後の一時的な対応ではありません。会社が変化を続けるなかで、社員が役割を理解し、成長し、成果を出し続けるための基盤づくりです。
PEファンドや商社の投資先であっても、一般的な企業買収・合併・統合の場面であっても、人事制度の見直しが必要になる背景は共通しています。それは、新しい経営方針と、日々の職場で働く社員の行動をつなぐ必要があるためです。
人事担当者には、制度改定を単なる事務作業として捉えるのではなく、経営と現場の橋渡しを行う重要な役割が期待されます。自社の実情を理解し、必要に応じて外部の知見も活用しながら、社員が安心して力を発揮できる仕組みを整えることが、企業の持続的な成長につながります。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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