中小企業に人事制度は必要か? 制度の整備が必要な2つの兆候
人事制度
中小企業の経営者や人事担当者の方から、「自社はまだ小規模だが、人事制度は必要か?」といったご相談をいただくことがあります。
結論から言えば、人事制度の必要性は社員数だけで決まるものではありません。100名規模でも人事制度を整備せずに安定した組織運営ができている企業がある一方で、20名規模でも人事制度の整備が不可欠になる企業も存在します。
100年企業研究会代表の著書『100年続く老舗企業が大事にしていること』(株式会社日本実業出版社・2025年)によると、創業から100年以上続く企業は、全世界で約7万社存在し、そのうち約半数が日本企業であるとされています。
同書では、こうした老舗企業の共通点についても分析がなされており、その一つとして、「大企業を除けば、就業規則や評価制度が明文化されていないケースが多い」という点が挙げられています。
筆者が考える、「人事制度がない(評価処遇のルールが明文化されていない)が安定した組織運営ができている企業」には、「本来人事制度が担うべき役割を人が代替できていること」、「会社に対するロイヤリティが高いこと」などの特徴があると思います。
本稿では、このうち「本来人事制度が担うべき役割を人が代替できていること」に焦点を絞り、1.それが成立する条件と、2.成立しなくなる兆候(≒人事制度を整備すべき兆候)についてご紹介します。
前提として、人事制度が担うべき役割とは「評価処遇機能」を指します。言い換えると「何が評価され、処遇はどうなるのか」が明確化された仕組みのことです。
1.人事制度が担うべき役割を人が代替できる条件
これらの企業には、いくつかの共通する「条件」があります。それは、処遇判断に対する社員の信頼感・納得感があることです。具体的には以下の2つが考えられます。
①“相場感”があること
まず、何を基準に処遇が決まるかについて“相場感”があることが挙げられます。この相場感とは、評価処遇基準が明文化されていなくても、判断が繰り返されることで評価や処遇がパターン化され、「この会社では、こういう姿勢・成果が評価される」という価値観が暗黙知として共有されている状態と言えます。
②“安心感”があること
もう一つは、ちゃんと自分のことを見てくれているという“安心感”があることが挙げられます。日常の仕事ぶりと処遇判断が結びついているため、社員は「どこかで勝手に評価処遇が決められた」という感覚を持ちにくくなります。この安心感が、制度の代替として機能しています。
相場感や安心感があることで処遇判断に対する信頼感・納得感が醸成されます。
2.成立しなくなる兆候(≒人事制度を整備すべき兆候)
上記条件を踏まえると、人事制度が担うべき役割を人が代替できなくなる(人事制度を整備すべき)兆候とは、相場感、安心感が失われつつある状態と言えます。具体的には
①:何を基準に処遇が決まるか、“相場感”が崩れ始める
・社員が「この行動(成果)は評価される/されない」が予測できなくなってくる
・時期や人によって判断軸がぶれ、評価処遇の一貫性が失われ始める などが原因として考えられます。それゆえ、これまで機能していた「察する」「説明なくとも理由が分かる」が成立しなくなり、暗黙知だった相場感が崩れ始めます。
社員数の増加や、新たな価値観を持った社員の入社、ベテラン社員の離職など人の入れ替わりが発生するタイミング、あるいは経営トップが交代するタイミング(判断軸が変わるor伝わりづらくなる)で起こりやすい兆候といえます。
②:「ちゃんと見てくれていない」といった、”安心感”が失われ始める
・部下の人数が増えたことで、上位者が社員の普段の仕事ぶりを十分に把握できなくなる
・そのため「ちゃんと見てくれている(わかってくれている)」と感じにくくなり始めている などが考えられます。
「ちゃんと見てくれている」という安心感が失われると、処遇判断そのものへの信頼も同時に揺らぎ始めます。事業の多角化、社員数が増加するタイミングで起こりやすい兆候といえます。
これらの兆候が見え始めたとき、人事制度の整備が必要ではないか検討してみて下さい。
最後に
本稿では、「人事制度を整備すべき兆候」として、これまで人が担ってきた人事制度の機能を維持できなくなったかどうかで判断すべきである、という視点をご紹介してきました。
人事制度を整備するかどうかではなく、「人で担い続けるのか、仕組みに移すのか」といった視点で、ぜひ一度自社の状態を見直してみてください。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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