評価エラーに立ち向かう!研修に頼りすぎない制度面からの処方箋

皆様の会社では、評価はうまくできていますか?
弊社へのお問い合わせでは、評価制度はあるが上手に使えていない、結果が適切ではなく納得感が得られていない、という声がよく寄せられます。
 
評価者側の物の見方の癖や傾向により適切な評価結果が得られない現象を「評価エラー」といいます。評価者が制度を十分に理解していない、被評価者の観察が不十分である、または判断の際に無意識の偏見や先入観に影響されたりすると、本来測るべき貢献や仕事ぶりが評価に正しく反映されません。
このとき、素直な解決策として「評価者に制度の理解や自覚を促す」「評価エラーを理解し、対処法を学ぶ」等が挙げられます。実際にこの目的で評価者研修を実施されている企業様は多く、もちろんこれは重要な施策です。
しかし、実は上記だけでは十分とはいえません。なぜなら、そもそもの評価表の設計が評価エラーを助長している場合があるからです。
 
そこで本稿では、評価者が「評価エラーを回避しやすい」評価表とするために、設計を見直すポイントをご紹介します。
 
1.評価エラー「中心化傾向」を引き起こしやすい評価表
設計を見直すため、まずは評価エラーを助長してしまう評価表の特徴を挙げます。ここでは評価エラーのなかでもよく起こりがちな「中心化傾向」を題材に取り上げます。
 
【「中心化傾向」を助長する評価表の特徴】
評価基準が曖昧で、何を根拠に判断すべきかわからない

評価者は被評価者の何を観察して評価すべきかがわからず、評価判断に自信が持てないため、「とりあえず真ん中でいいか」という心理が働いて評価が中心に寄ります。(具体例)
・「コスト意識:コスト削減を意識している」
・「生産性向上:業務の生産性向上に努めている」

 
評価基準で評価の点数差がつけられない

評価基準を見ても5段階などの点数のつけ分けがしにくい場合、「真ん中」以外がつけにくく、評価が中心に寄ります。
(具体例)
・「リーダーシップ:リーダーシップがあったか」
・「挨拶:お客様や上司・同僚に対して元気に挨拶できていたか」

 
評価項目数が多すぎる

評価者が被評価者を観察し切れなくなり、評価事実の収集や根拠付けが不十分で自信が持てず評価が中心に寄ります。また、項目数が20個や30個等多くある場合、「めんどくさい」という心理も働きます。

 
評価表に上記のような問題がある場合、例え評価者を育成したとしても「中心化傾向」が助長されてしまうことがお分かりいただけるかと思います。
 
2.「中心化傾向」を避けるための評価表の見直しポイント
それでは上記の要因を解消するには、具体的に評価表をどう見直すべきでしょうか。以下ではポイントを3つに分けてお伝えします。
 
①「どんな行動を根拠に評価すべきか」がわかる評価基準とする

評価者が評価しやすいように、評価基準は具体的に示しましょう。特に仕事のプロセスや職務能力といった定量化が難しい項目の場合、「意識している」「努めている」といった曖昧な表現を避け、具体的に観察できる行動を根拠の例に示すことが必要です。
先に上げた「コスト意識:コスト削減を意識している」や「生産性向上:業務の生産性向上に努めている」の例のように、評価基準がどんな行動に表れるかが示されていないと、評価者は評価がしにくくなります。実際に想定される行動(改善の提案等)や見込まれる結果(業務のスピード向上等)を例に挙げるとよいでしょう。
 
(改善例)
・「コスト意識:業務におけるコストの発生要因を発見し、改善を提案していた」
・「生産性向上:業務手順や確認方法について改善を行い、実施のスピードを高める、またはミスを軽減することができていた」

 
②評価者が評価で差がつけられる評価基準にする

先に上げた例の「リーダーシップ:リーダーシップがあったか」や「挨拶:お客様や上司・同僚に対して元気に挨拶できていたか」といった評価基準の場合、たとえ評価者が被評価者の行動を十分に観察していても「あった・なかった」「できていた・できていなかった」の2段階でしか点数がつけられません。
よくある人事評価表では、1つの評価項目を5段階評価として点数に差をつける仕組みを採用しています。このような仕組みで運用する場合、評価者が被評価者の仕事ぶりや行動を見て5段階の点数差をつけられるような評価基準を設定する必要があります。
また、5段階のような点数差をつけられない場合(上記の例では「挨拶」が該当します)、そもそも評価項目が加点評価に適していないことも考えられます。その場合は、評価項目から除外する、もしくは減点項目として評価する(できていない場合に減点する)ことを検討しましょう。
 
(改善例)
・「リーダーシップ:リーダーシップを発揮し、部署を統率できていたか」
 ※評価点の例:
 5:統率できており、部署内で相乗効果を生み、成果につなげられていた。
 4:統率できており、部署内で相乗効果を生んでいた。
 3:概ね問題なく部署を統率できていた。
 2:十分に統率できておらず、混乱や問題が生じることがあった。
 1:全く統率できておらず、混乱や問題が目立ち、早急に改善を要した。

 
③項目数は「多すぎない数」にする

評価項目を検討する際、「あれもこれも評価したい」と考えると、つい項目数が多くなりがちです。評価の目的の一つは、評価結果を公平な報酬決定の材料にすることです。そのため、評価を通じて社員ごとの貢献や仕事ぶりの差が明らかにできていれば、目的は果たされます。経験則にはなりますが、10項目程度あれば差をつけることが可能です。もし評価制度を初めて導入する際など運用に自信がない場合は、5項目などから試してみてもよいでしょう。

 
3.まとめ
いかがでしたでしょうか。本稿では、評価者が「中心化傾向を回避しやすい」評価表とするために設計を見直すポイントをご紹介しました。
 
評価エラー自体は評価者の問題ですが、評価表の不備により評価エラーが助長されている場合があります。そのため、評価者の育成だけでは評価エラーが緩和できるとは限らない点に注意が必要です。
また、育成に比べて比較的短期間で着手できますので、もし現時点で評価に課題を感じている場合はまず評価表の見直しから始めることもお勧めです。
 
評価エラーにお困りの方も、すでに評価者の育成に取り組まれている方も、ぜひ一度、評価表を見直してみてはいかがでしょうか。

執筆者

増田 あかり 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職では事業会社にて、電子部品の生産管理、および新卒採用支援に従事。その過程で人と組織の課題に向き合う難しさとやりがいを実感。より中長期的かつ本質的な視点で組織と人の成長を支援したいという想いから新経営サービスに入社。顧客の想いと課題に寄り添うコンサルティングを心掛けている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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