「ジョブ型人事」と「成果主義人事」の違い②

前回のブログでは、本稿のテーマである「ジョブ型人事」と「成果主義人事」の処遇制度上の違いに関する論考として、まずは「成果主義人事」の制度的特徴について解説しました。改めてその特徴をまとめると、「”期待成果”や”成果創出までのプロセス”ではなく、”最終的な結果・実績(=結果成果)”にフォーカスして処遇を決定する仕組み」と定義することができます。
 
今回のブログでは、本稿のメインである「ジョブ型人事」について、人事制度としての特徴を解説していきます。そこでの整理を通じて、「ジョブ型人事と成果主義人事とでは、”何が””どう”異なるのか?」という本稿の主題に対して、(私見にはなりますが)その解を明らかにしていきたいと思います。
 
 
「ジョブ型人事」については、小生の過去ブログのうち「”仕事主義”人事制度」をテーマとした各回において、その定義・特徴、求められる背景などについて詳しく解説しています。本ブログでは、紙幅の都合上、「ジョブ型人事」の”制度的特徴”にフォーカスして、以下、改めて解説します。
 
「ジョブ型人事」においては、賃金や等級などの人事処遇を決定する際の軸・基準として、「ジョブ(=仕事=職務)」を据えることになります。従って、一人一人の社員が実際にどのようなジョブ(職務)に就いているのかを明らかにした上で、そのジョブ(職務)のレベルや価値に応じた処遇を適用します。あくまでも「ジョブ(職務)」そのものが処遇決定のベースになるのであり、そのジョブを担当する社員の能力や年功は、処遇決定に際しては考慮しないというのが基本的な考え方になります。その意味する所を分かりやすく説明するため、敢えて極端な例を述べれば、「能力的には不十分なAさんが、職務価値の高い第一営業課長の仕事に就いた場合、Aさんの(不十分な)能力は関係なく、第一営業課長の”ジョブ(職務)”としてのレベル・価値に基づいて、等級や給与を決定する」ことになります。
 
このため、「ジョブ型人事」としての人事制度を構築・導入するにあたっては、社員一人一人が担当しているジョブ(職務)のレベル・価値を明らかにする作業が不可欠になります。この作業のことを、一般的には「職務分析や職務評価」と言います。職務分析や職務評価の詳細については、別の機会に解説したいと思いますが、端的にまとめると以下の通りです。
 
【職務分析】
一つの「職務」として捉えることができる仕事それぞれについて、求められる遂行内容や成果・実績、必要となる能力・知識などを具体的に明らかにし、「職務記述書」として文書化すること。
 
【職務評価】
職務記述書が作成された一つ一つの職務ごとに、職務のレベルを一定の基準(難易度/ボリューム/金銭的価値など)に従って判定し、個々の職務の”序列”や”相対的な位置付け”を明らかにすること。
 
このように、「職務分析」とそのアウトプットである職務記述書に基づいた「職務評価」によって、各ジョブ(職務)のレベル・価値が決まる(その先には、等級や給与といった処遇決定につながる)ことになります。従って、「ジョブ(職務)」の捉え方が非常に重要になるということは、言うまでもありません。さらには、この「ジョブ(職務)」の捉え方の部分において、「ジョブ型人事」の制度的特徴を決定づける重要なポイントが含まれています。それが、「ジョブと成果との関係性」になります。
 
例えば、全く同じ仕事内容のジョブ(※ジョブ名を「ジョブZ」とする)に就く2人の社員(Bさん、Cさん)がいると仮定します。このうち、Bさんは、ジョブZで求められる能力等が明らかに不足しているため、ジョブZを通じて実現した成果のレベルは、期待値よりも常に下回る状態が続いています。一方、Cさんは優れた能力を有しているため、ジョブZを通じた成果のレベルは、常に期待値を上回る状態が続いています。このような例において、この「ジョブZ」の職務レベルはどのように判定すればよいのでしょうか?同じ仕事内容のジョブであるにも関わらず、そのジョブで実現された(結果としての)成果のレベルは、Bさんの場合は常に低く、逆にCさんの場合は常に高い・・・という状況にあるのです。
 
当然ですが、BさんとCさんが担当する「ジョブZ」は同じ仕事内容であるため、(いわゆる一般的な職務評価の下においては)2人が担当するジョブの職務レベルも同じになります。ただ、上記の例では、ジョブで実現された成果のレベルが担当者によって異なっているわけですが、”最終的な結果としての成果の有無・程度”については、職務レベルの判定に際しては原則として考慮しません。考慮すべきは、【本来的(標準的)に期待される成果の内容・レベル】になります。すなわち、前回のブログにおける【期待成果】がこれに該当します。
 
従って、上記例における「ジョブZ」の職務レベルの判定にあたっても、BさんやCさんが実際に実現した結果成果ではなく、その仕事に通常期待される成果(=期待成果)の内容・レベルが考慮されることになります。例えば、ジョブZが「営業主任」という仕事であった場合、”営業主任として標準的に求められる【期待成果(受注責任)】が2億円/年ということであれば、この【期待成果】が職務レベル判定(=職務評価)の対象・基準の一部になるということです(※なお、職務評価においては、期待成果のみで職務レベルを判定するわけではありません。ここでは、成果のうち考慮すべきは期待成果である、という意味になります)。
 
以上を踏まえて、「ジョブ型人事」の制度的特徴を端的にまとめると、「その職務が”本来的に有している”難易度(レベル)や市場価値に基づいて処遇を決定する仕組み」、と定義できます。この”本来的に有している難易度(レベル)”の中には、上述した【期待成果】が重要な判断要素の一つとして含まれることになります。一方、そのジョブ(職務)において、実際にどのような成果を実現したかということ(=結果成果)は、少なくとも「ジョブ(職務)」自体のレベル・価値判定においては、基本的には関係ありません。これこそが、「ジョブ型人事」と「(最終的な結果にフォーカスする)成果主義人事」との根本的・本質的な制度的差異になります。
 
「ジョブ型人事」に関する昨今の記事等の中には、残念ながら「ジョブ型人事と成果主義人事を同一視」している記事も散見されます。前回と今回、小生のブログのテーマとして「ジョブ型人事と成果主義人事の違い」について取り上げたのは、そのような記事等を看過することができなかった・・・というのが最も大きな理由になります。人事の専門家でない方にとっては、小難しく感じたかもしれませんが、これから「ジョブ型人事」の仕組みを検討・導入されるのであれば、本稿で述べたことは”基礎中の基礎”として非常に重要なポイントになります。是非、そのことを念頭に置いていただけばと思います。
 
 
なお、次回のブログでは、前回・今回の延長戦として、前回のブログの冒頭で述べた「実際の人事制度の構築・導入にあたっては、両者(=ジョブ型人事&成果主義人事)を併用するケースも多分にある(※特に、ジョブ型人事を主軸に据える場合には、成果主義人事を併せて導入するケースが多い)」の意味する所について、より制度論的な観点から解説したいと思います。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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