【努力義務に対応している割合は?】70歳までの高年齢者“就業”確保措置
労務関連
2021年4月施行の改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの雇用推進が企業に課されることになってから2年ほど経過していますが、65歳を超えて70歳までの高年齢者就業確保措置は「努力義務」の位置づけとなっています。
「義務でないなら対応しなくてもよい」と捉え、差し迫って必要性がないため検討は放置している、社内から検討要請も出始めたがまだ十分協議できていない、という企業も多いのではないでしょうか。
■ 70歳までの就業機会を確保している“努力義務対応”企業は約28%弱
厚生労働省が2022年12月に発表した「令和4年 高年齢者雇用状況等報告」(*1)によると、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は27.9%で、中小企業では28.5%、大企業では20.4%という結果でした。前年調査に比べると、全体で2.3ポイント実施済み企業の割合が上がっていますが、それでも未実施企業が大半というのが実情です。
なお、70歳までの就業確保措置実施済み企業の内訳としては、「継続雇用制度の導入」がもっとも多いようです。
出所:厚生労働省「令和4年 高年齢者雇用状況等報告」
このように、70歳までの就業確保措置は進んでいないのが実態ですが、改めて、70歳までの高年齢者就業確保措置の「努力義務とは何か」「努力義務を満たしていないと罰則があるのか」「企業が取り組まなければいけない措置は何か」を簡単に整理しておきます。
■そもそも努力義務とは?労使で協議など、実施にむけて努力していればいいのか?
1.努力義務を満たしている条件
【Q】
改正法においては、高年齢者就業確保措置は努力義務(「努めなければならない」)とされていますが、事業主が措置を講ずる努力(例えば、創業支援等措置について労使で協議はしているが、同意を得られていない場合)をしていれば、実際に措置を講じることができていなくても努力義務を満たしたこととなるのでしょうか。
【A】
⇒ 改正法では、高年齢者就業確保措置を講ずることによる 70 歳までの就業機会の確保を努力義務としているため、措置を講じていない場合は努力義務を満たしていることにはなりません。また、創業支援等措置に関しては「過半数労働組合等の同意を得た措置を講ずること」を求めているため、過半数労働組合等の同意を得られていない創業支援等措置を講じる場合も、努力義務を満たしていることにはなりませんので、継続的に協議いただく必要があります。
つまり、「努力していればいいのではない。70歳までの雇用延長に関し措置を講じていなければ、努力義務を満たしていない。また、創業支援等措置(※後述:雇用以外の取組み)も、過半数労働組合等の同意を得ていなければ努力義務を満たしていない」ということです。
2.「努力義務」違反に罰則はあるか?
ただし、「厚生労働大臣は事業主に対して高年齢者就業確保措置の実施について必要な指導及び助言をすることができる」「指導又は助言をした場合において、高年齢者就業確保措置の実施に関する状況が改善していないと認めるときは、(中略)高年齢者就業確保措置の実施に関する計画の作成を勧告することができる」と定められています(高年齢者雇用安定法 第十条の三)。
3.70歳までの就業機会確保措置の種類
①70歳までの定年引上げ
②70歳までの継続雇用制度の導入
③定年廃止
④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業に従事できる制度の導入
①~③は「雇用」になりますが、④~⑤は「創業支援等措置」と区分されており「雇用以外の選択肢」とされています。
4.70歳までの継続雇用制度の導入で、65歳までの継続雇用制度と異なる点
I.対象基準を定めることができる
II.継続雇用することができる事業主の対象が自社、特殊関係事業主に加え、「特殊関係事業主以外の他社」も可となる
詳細は厚生労働省等の各種パンフレット(*3)を参照いただければと思いますが、ポイントは「必ずしも希望者全員を雇用する必要はない。また、必ずしも自社(含む関連会社)で雇わなくてよい」ということです。
5.創業支援等措置とは
6.創業支援等措置(雇用以外の選択肢)で留意すること
第一に、創業支援等措置を導入するにあたっては、「計画作成」⇒「過半数労働組合等の同意」⇒「計画周知」というプロセスが必要です。個々に契約すれば良いのではなく、事前に同意と周知が必要な点に、留意が必要です。
なお、計画に関しては、業務内容に付随して報酬・金銭/契約頻度/納品/変更/終了…など11項目(又は12項目)を記載することが定められています。(*4)
第二に、大前提になりますが「雇用契約」ではありませんので、「労働者」として扱うことはできません。すなわち、会社側は「業務遂行に関して細かく指示・命令・管理監督すること」や「勤務場所・時間の強制拘束」等は出来ません。
これまでの社員時代と同じような扱いをして、指揮命令関係があるなど「労働者性がある」と見なされてしまうと、予期せぬトラブルの元になります。この「雇用以外の選択肢」を選ぶ場合は、企業側も従業員側も契約関係(雇用との違い)について、十分理解することが重要です。
■後手に回らないよう、高年齢社員の活用方針を考え対応を
以上、今回は70歳までの就業確保措置に関して、ポイントをまとめました。
先にも上げましたが、現時点では努力義務のため「70歳までの就業機会確保措置」は検討を後回しにしている企業が多いことが伺えます。人事課題の優先順位を検討した結果から、意図的に措置を後回しとしているならまだ良いかもしれません(※法的には努力義務ですので、何らか措置を講じることを推奨します)。
問題は、自社組織の現状や課題もつかめておらず、「努力義務で他社も大半未実施だし、65歳継続雇用義務は以前からクリアしているので、特に問題ないだろう」と、60歳超の高年齢社員の活用方針や処遇に無関心、実質放置状態であることです。総額人件費/社員モチベーション・生産性/人材確保/定着・離職率等、何らか問題が起こって後から急ぎで対応を検討しなければいけない…とならないように気をつけたいものです。
本記事を読んで、少しでも“わが社ではどのように高年齢社員の処遇・活用を検討すべきか、今一度考えたい”と興味を持たれた方は、こちらも是非ご一読ください
「シニア社員の活躍を促進する」人事制度構築のポイント
【参考URL】
*1:厚生労働省、「令和4年高年齢者雇用状況等報告」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29133.html
*2:厚生労働省、「高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000745472.pdf
*3:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構、厚生労働省、「70 歳雇用推進マニュアル」
https://www.jeed.go.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/q2k4vk000003om56.pdf
*4:厚生労働省、「創業支援等措置の実施に関する計画の記載例等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000750086.pdf
執筆者
本阪 恵美
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職では、農業者・農業法人向け経営支援、新規就農支援・地方創生事業に8年従事。自社事業・官公庁等のプロジェクト企画・マネジメントを行い、農業界における経営力向上支援と担い手創出による産業活性化に向け注力した。 業務に携わる中で「組織の制度作りを基軸に、密着した形で中小企業の成長を支援したい」という志を持ち、新経営サービスに入社。企業理念や、経営者の想いを尊重した人事コンサルティングを心がけている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。