「ジョブ(職務)」の定義とは?

ジョブ型(職務型)の人事制度の導入に向けては、当然、一人ひとりの「ジョブ(職務)」について、その内容やレベル・価値等を明らかにする必要があります。この点については議論の余地はないと思いますが、そもそも「ジョブ(職務)」とは何を持って”ジョブ・職務”なのでしょうか?
まず大前提として、ジョブ(職務)の定義として、何らかのルール等に基づく世間共通のものが存在するわけではありません。従って、その定義・捉え方は色々である、というのが実態です。その上で、本稿では、「ジョブ(職務)」の定義として最も一般的・基本的であると筆者が考える内容について、以下説明させていただきます(※一つの捉え方に過ぎないという点について、ご了承ください)。
 
【職務】
社員一人ひとりが担当する仕事については、実際には様々な細かい/具体的な仕事から構成されているケースがほとんどです。例えば、中小企業の「総務担当(一般社員)」の社員の場合には、「受付対応」「役員秘書」「施設・備品管理」「行事準備」・・・などです。このような、一つ一つの細かい/具体的な仕事のことを、一般的には「課業(タスク)」と呼びます。そして、社員一人ひとりに割り当てるべき複数の課業の集まりを、一般的には「職務」として定義・捉えることになります。
上記の、いわゆる一般的な定義に基づく「職務」の場合、一人ひとりが担当する仕事が職務区分のベースになるため、例えば同じ職種&同じ職位に2人の社員がいる場合であっても、「職務」としての内容やレベル・価値が違うという事象は、当然に起こり得ます。欧米型の純粋な「ジョブ型(職務主義)」の人事制度の場合には、その違いを持って処遇に差をつけることになります。
 
以上が、「職務」の基本的・一般的な定義になりすが、この「職務」に類する言葉として、「職位」や「職種」があります。「職務」の定義やその輪郭をより具体的にイメージするにあたっては、「職位」や「職種」との定義上の違いを認識することがその一助となります。以下、参考までに「職位」と「職種」の基本的・一般的な定義についても簡単に触れておきます。
 
【職位】
極めて単純に述べれば、「職位」とは、社内組織における”縦”の職務レベル区分になります。役職者の場合には「役職の区分=職位」になりますので、例えば、「部長クラス」「課長クラス」「課長代理クラス」・・・になります。一方、役職がつかない階層の場合には、実務の職務レベルで区分するのが一般的です。例えば、「上級実務担当」「中堅実務担当」「初級実務担当」などです。
実は「ジョブ型」人事制度とひと口に言っても、その内容としては色々なタイプがあるのですが、ジョブ(職務)の単位を大くくりで捉えて人事制度制度を構築するパターンに、「役割主義」人事制度というものがあります。この場合、ジョブの単位である「役割」をこの「職位」で捉えるケースが日本企業では多いようです。具体的には、社内における”縦軸”の職務レベルのみをシンプルに処遇に反映することを目的として、この職位(役割)をジョブの単位として適用することになります。その場合、当然、後述する”職種(横軸)”による違いは無くなります。
 
【職種】
「職種」については、日本企業でも様々な場面で「●●職」「■■職」といった言葉を日常的に使っているため、多く方にとってその定義のイメージがつきやすいのではないでしょうか。具体的には、営業や開発、製造、事務、販売、技術・・・など、仕事の「系統・タイプ」を示す区分であり、会社における”横軸”での職務の違いになります。従って、この「職種」については、社内組織の部署区分と連動しているケースも多いです。
なお、この「職種」についてですが、部署単位で職種を捉えたパターン(「広義の職種」)と、当該広義の職種の中をさらに細かい仕事のタイプに分けたパターン(「狭義の職種」)があります。両者の違いについては会社によって様々ですが、一例としては、営業職(=広義の職種)の仕事内容を、”提案営業職”と”物販営業職”の2種類(=狭義の職種)に区分する、などが挙げられます。
 
冒頭に述べた、基本的・一般的な「職務」の定義だけだと、(ジョブ型人事とは対極的な仕組みの中で処遇されてきた)日本人にとっては分かりづらさ、イメージのしづらさがあるのではないでしょうか。もしそのような場合には、まずはより簡易な考え方・手法として、縦軸である「職位」と横軸である「職種」によって区分される一つの”マス”を、より広い意味での「職務」として捉えてみてはいかがでしょうか。もちろん、実際には、その”マス”の中にも色々な職務があり、その内容・レベルが異なるケースも多々あります。ただ、日本企業において「ジョブ型の人事制度」を検討するに場合には、この「職位×職種」でジョブ(職務)を捉えた方が、実は制度の構築も運用もしやすいと筆者は考えています。この辺りの理由や詳細については、稿を改めて論じたいと思います。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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