日本企業にお勧めのジョブ型給与~職務給+年齢給~

以前のブログにおいて、ジョブ型(=職務・役割主義)の人事制度が日本企業でなかなか浸透しない理由について解説しました。その後、大企業などを中心に、この1~2年で急速にジョブ型人事制度も広まりつつありますが、一方で、検討はするものの実際には構築・導入にまで至らない日本企業も、まだまだ多いのが現実ではないでしょうか。

上記のブログでは、日本企業でジョブ型人事制度が浸透しづらい理由を3つ述べましたが、そのうちの一つとして、「日本企業や日本人には、定期的な昇給・昇格が根付いている」という点を挙げました。ジョブ型人事制度の下で「職務給」を導入する場合、基本的な考え方として、年功的な要素で給与改定がなされることはありません。しかしながら、長らく年功的人事制度に慣れ親しんだ日本企業・日本人の多くには、「給与は毎年アップして当然」という考え方が根付いています。故に、“職務が変わらなければ給与も変わらない”という「職務給」の導入に漕ぎつけられない日本企業も多いようです。

 

一つの打開策としては、「職務給」であっても職務ごと(職務等級ごと)の範囲給とし、毎年の評価による定期昇給の余地を制度的に設ける方法があります。おそらく、職務給という名の基本給を採用している日本企業の多くが、このような仕組みを採用しているのではないでしょうか。実際、小生の支援事例でもこのようなパターンは決して珍しくはなく、日本企業において職務給を導入する場合の、最も現実的な方法になると考えます。しかしながら、このような仕組みについては、「職務給は仕事の価値に対して支払うもの」という基本的な考え方から少なからず逸脱してしまうものであり、また、結果的には能力給と何ら変わらない運用になってしまう・・・などの懸念点もあります。

 

 

■基本給を「職務給+年齢給」の2本立てで構成する

今回のブログでは、上述した“日本企業でよく見られる職務給”とは別の仕組み(事例)をご紹介します。具体的には、基本給を「職務給と年齢給」の2本立てで構成するパターンになります。いずれの社員についても、基本給はこの2つの給与の合計額が支給されます。

 

●基本給 = 職務給 + 年齢給

【職務給】・・・職務価値に基づく職務等級ごとの単一給。職務異動によってのみ変化

【年齢給】・・・50歳まで毎年一定額が自動昇給。年齢階層ごとに昇給額は異なる

 

上記の仕組みについて、職務に対して支払う「職務給」と、その真逆の考え方に位置する「年齢給」の2つをセットにして基本給を構成するのは、制度論的に問題では?・・・という感想を持たれた読者の方もいるかもしれません。しかしながら、実際、小生の顧客企業において、同様・類似の仕組みを導入した(または導入予定の)事例が数社あります。

いずれの会社も、人事制度のトレンドを踏まえた上で、「どのような職務を担っているかで等級や給与を決定する仕組みを導入したい」という考えがある一方で、「社員の納得性などを鑑みて、安定的に昇給していく仕組みも残したい」という考えも持っており、結果、このような仕組みに至っています。相反する2つの給与(職務給と年齢給)から構成される基本給ではあるものの、いずれの会社もしっかりとした考え方の下に当該仕組みを採用しており、そのようなケースであれば制度論的にも問題はありません。結局の所、給与というのは「会社が何に対して支払うのか?」を仕組み化したものに過ぎないため、会社や経営トップの中にしっかりとした考え方があれば、(敢えて極論的な言い方をすると)“どのような仕組みであっても成り立つ”・・・ということになります。

また、上記仕組みの前にご紹介した、日本企業でよく見られる「範囲給としての職務給」と比べると、職務に対する部分と年齢(定期昇給)に対する部分が制度上・テーブル上で明確に区分されるため、制度の考え方や趣旨が社員に伝わりやすいと言えます。すなわち、職務価値に対する給与と(年功的な)定期昇給の対象とする給与を一本化(=範囲給としての職務給)してしまうのではなく、独立した給与項目による2本立てで基本給を構成した方が、かえって社員に対して説明がつきやすい、ということです。

 

以上、今回のブログでは“意外”とも言える仕組みをご紹介しましたが、これからジョブ型給与を検討されるのであれば、日本企業・日本人にあったジョブ型給与として、「職務に対する給与」と「年齢(・勤続)に対する給与」によるハイブリッド型の仕組みについても、是非、検討パターンの一つに加えていただければと思います。

 

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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