「賃金」について改めて考えてみる

新しい賃金制度を設計する場合、一般的にまずはじめに実施することは、賃金の決定要素の設定である。 具体的に言えば、賃金の決定基準にどのような要素を据えるかということである。 年齢、勤続年数、能力レベル、職務価値、成果・業績、労働時間、属人的要素(家族構成/住環境)・・・など、 賃金の決定要素には様々なものが考えられる。
 
これらのうち、どの要素を採用するかについては、会社や組合などの報酬ポリシーによって、 最終的には決定されることになる。
 
「年齢(経験)によって能力は上昇していくので、『年齢』によって賃金を決めるべきだ」
「賃金とはそもそも労働の対価なので、『職務価値』や『成果・業績』によって決めるべきだ」
「社員の生活保障の観点からは、家族手当を維持すべきだ」
「働いた時間数に応じて、賃金は支払われるべきだ」
 
・・・・・様々な考え方があるが、各社の報酬ポリシーなどによって決定される以上、 どれが正しいということはない。だからこそ、多くの会社で賃金の決定要素は異なっているのである。
 
それでは、『賃金』とは、(各社の報酬ポリシーなどに基づく)意思決定の産物でしかないのだろうか???
『賃金』とは何か。改めて深く考えてみると、非常に奥深いテーマであることに気づかされる。
 
上述した、賃金決定要素を何に据えるかという話は、 誤解を恐れずに言えば、賃金決定システムの設計上の観点でしかない。 賃金決定要素を「年齢」に据えている会社が多いとしても、 だからと言って、それが賃金の本質を意味しているとは限らない。(もちろん、本質なのかもしれないが。。。)
 
恥ずかしながら、私自身、このようなテーマでブログを書いておきながら、 「賃金とは何か」ということについて自身なりの明確な”答え”を持っているわけではない。 ただ、多くの顧客企業への賃金制度改定支援などを通じて、今現在自分自身が認識している”賃金の性質”は、 以下のようなことである。(※あくまでも、筆者の私見)
 
・賃金は、非常に多くの社員にとって、「生計費」の糧になっている
・仕事的要素(能力/職務価値/成果・業績など)と賃金の金銭的価値の間に、 真に合理的な関係性を見出すことは、難しい
・賃金を上げても、モチベーションがアップするとは限らない。 しかしながら、賃金を下げれば、多くのケースにおいてモチベーションはダウンする。
 
賃金制度改定を実施する場合、我々人事コンサルタントも含めて、 どうしてもシステム的/理論的な側面に目が行きがちである。 もちろん、運用していくためには仕組みの面を詰めなければならない。 ただ、せっかくの機会なので、「賃金とは何か」という本質的な側面について、 プロジェクトメンバー各々が考えを巡らせてみることも、一考に値するのではないだろうか。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

バックナンバー

バックナンバーはありません