中堅・中小企業における“ジョブ型”人事制度の可能性②

前回のブログでは、「中堅・中小企業における“ジョブ型”人事制度の可能性(導入すべきか否か、導入できるのか否か)」について解説しました。

標題テーマの第2弾である今回のブログでは、前回とは対極的な観点から、「中堅・中小企業における“ジョブ型”人事制度の構築・導入のハードルと対処方法」について解説します。

 

前回のブログで解説した通り、中堅・中小企業であっても、“ジョブ型”人事制度を導入すべき余地は十分にあると考えますが、一方で、中堅・中小企業であるが故に、“ジョブ型”人事制度を構築・導入するにあたっての【ハードル】というものが、実際には存在します。以下の論稿では、実際にどのようなハードルが存在するのか、またそのようなハードルに対してどのように対処していくべきかについて、具体的に説明していきます。

 

中堅・中小企業が“ジョブ型”人事制度を構築・導入する際の【1つ目のハードル】は、「職務分析や制度設計・運用が煩雑であり、限られた人事担当者では実施に限界がある」という点です。“ジョブ型”人事制度の中でも、(役割主義ではなく)特に「職務主義」に基づく仕組みを導入する場合、一つ一つの仕事(ジョブ)の内容を明確化/明文化し、その価値/レベルを測定する作業、すなわち「職務分析と職務評価」が必要になります。会社の規模や仕事の単位にもよりますが、いずれにしても当該作業を社内で実施する場合にはかなりの工数と煩雑さを要します。また、「職務主義」の“ジョブ型”人事制度の下では、当然ですが職種や仕事によって賃金テーブルや評価内容が変わることになるため、旧来型の“能力主義”人事制度と比べて、制度自体の設計や運用にも手間がかかります。

上記ハードルに対する対処方法としては、一般論にとらわれることなく、“ジョブ型”人事制度の導入目的を実現するための「最小限の方法や制度」を採用する、ということです。例えば、職務分析や職務評価についても、実際の具体的手法としては様々な方法があります。従って、流行りの手法や崇高(だと思われる)手法を安易に採用するのではなく、目的を実現するための「最小限の方法」を意図的に採用することで、無用な手間や煩雑さを軽減させることにつながります。

また、制度内容について言えば、まずは職種ごとに制度を分けない「役割主義」の導入から始めたり、もしくは「職務主義」を採用する場合であっても、できるだけ仕事のタイプを集約する(=ジョブの単位を細かく設定しすぎないようにする)ことで、目的に照らして不必要に手厚すぎる/複雑である仕組みになることを回避することができます。

 

【2つ目のハードル】は、「職種によっては、同じ職種内でのキャリアアップが難しいケースがある」です。すなわち、(前回ブログの記載内容とは一部矛盾すると感じられるかもしれませんが、)仕事の職種やタイプによっては、その延長線上で仕事の高度化や自身の成長を描きにくいケースが、特に中堅・中小企業の場合には発生しやすい・・・という点です。

例えば、中小企業などで特定領域の事務系実務のみを担当している場合、ある程度の年数で仕事の内容・レベルが最高域に達してしまい、それより上位に位置する仕事というのは現時点では社内に存在しない・・・といったケースも珍しくはありません。これまでの年功/能力主義の下であれば、同じ内容・レベルの仕事を担当し続ける社員であっても、昇給させたり昇格させたりすることが制度的に可能でした。一方、いわゆる“ジョブ型”人事制度の場合には、仕事がより高度な内容・レベルに変わらない限り、ジョブ型としての基本的な考え方に基づけば、昇格はできず昇給も頭打ちになってしまいます。

それでは、“ジョブ型”人事制度の下で、上記のような仕事を担当している社員をどのように育成・処遇していけるのか?していくべきなのか?・・・ということについてですが、結局の所は、会社が意図的に「より高いレベルの仕事を創り出し、本人に与えていく」という業務視点でのアプローチが不可避になります。将来に向けては、定型事務的な作業であれば、RPAのようなシステムで代替させることがより一層可能になっていきます。従って、定型的な業務を“人(社員)”が直接的に担当するケースは極力減らしていき、創造性や対人性などが求められる仕事を積極的に“人(社員)”に割り当てていくことが、中堅・中小企業に“ジョブ型”人事制度の導入を可能ならしめることにもつながります。

ただ、本人自身が「賃金は変わらなくてもよいので、定型業務をそのまま担当し続ける」ことを希望するのであれば、そのような処遇を継続することが本人と会社にとってwin-winである・・・というケースも実際にはあると思います。

 

【3つ目のハードル】は、「仕事の難易度や価値が、担当する社員によって変化してしまう恐れがある」という点です。これは、職務分析や職務評価の実施に際しての留意点になります。中堅・中小企業の場合には、大手企業以上に仕事の「定義」が曖昧であり、結果的に「誰が担当するか」によって仕事の内容やレベルが変わってしまいがちです。要は、ある仕事について、今現在担当している社員の遂行内容・レベルが、本来の職務内容・レベルから下方に乖離しているケースが往々にしてある、ということです。

このような問題に対しては、現在の担当者が行っている業務内容をそのまま職務分析・評価の対象とするのではなく、上司や人事部が「本来のあるべき仕事」という観点で職務分析・評価を実施することが、基本的な対処方法となります。上司や人事部の工数は増えますが、“ジョブ(仕事)”に基づいた処遇を推し進めていくのであれば、職務内容や職務価値に然るべき客観性を持たせることは重要であり、そのための作業に多くの時間を要することになるのはやむを得ない、とのスタンスで臨むことが必要です。

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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