『選択型』賃金制度について:(2)具体的な制度例

前回のブログでは、『選択型』の賃金制度が求められる昨今の背景について解説を行った。今回のブログでは、当該制度を導入する場合の具体例について触れることとする。

 

前回のブログで既述の通り、最近の社員の傾向は2つの大きなタイプに分けることができる(※筆者認識に基づく)。具体的には、「非常に安定志向の強いタイプ(=Aタイプとする)」と「非常にチャレンジ志向の強いタイプ(=Bタイプとする)」という2パターンである。今回のテーマである『選択型』の賃金制度というのは、それぞれの人材タイプに適した給与改定ルールをあらかじめ用意した上で、いずれの制度を適用するかを”本人に選択してもらう”という仕組みである。

 

■選択型賃金制度のイメージ

     月給 = 基本給(A方式又はB方式) + 役職手当 + その他諸手当

 

月例給与が上記のような体系となっている場合、選択型の賃金制度の下では、給与のメインである基本給について、あらかじめ2つの給与改定ルール(A方式とB方式)を設定しておくことになる。
まずはA方式。これは、一般的によくある「積み上げ方式」の給与改定ルールを採用する。毎年の評価に応じて少しずつ金額が上がっていく仕組みなので、安定志向の社員(=上述のAタイプ)が選択することを想定している。
もう一つのB方式は、いわゆる「洗い替え方式」の給与改定ルールを採用する。これは、毎年の実績で大きく給与が変動する可能性がある、ドラスティックな仕組みである。例えば、B評価の社員がS評価を取ると、次の給与からS評価の金額になる。その後、C評価を取ると、次の給与からは一気にC評価の金額になる。従って、チャレンジ志向の強い社員(=上述のBタイプ)が選択することを想定している。

 

なお、設計上で留意が必要な点は、2つのテーブルの水準である。基本的には、同じ等級であれば同じ水準で設計するものの、等級ごとの上限額(最高額)については、洗い替え方式の方を高く設定すべきである。これは、積み上げ方式の方は、年数が経てばほぼ確実に上限まで到達してしまうので、当該上限額よりも洗い替え方式の上限額(=S評価の金額)を高めに設定しておかないと、洗い替え方式を選択する”旨味”が薄れてしまうからである。

 

このような「選択型」の賃金制度については、導入事例はまだまだ少ないものの、しかしながら個々の社員の志向に沿った仕組みという意味では、今後、徐々に増えていくものと考えられる。さらに言えば、世の中の多くの企業がまだ導入していない仕組みであるからこそ、採用面等での「差別化」につながる仕組みとして導入することも、一考に値するのではないだろうか。
もちろん、複数の制度を持つと運用が大変になるのでその辺りの考慮も必要ではあるが、”これからの賃金制度の一つのあり方”として、是非ともご検討いただきたい。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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