人事評価のフィードバック面談で『伝えたつもり』を防ぐ2つの実践スキル
人事考課(人事評価)
評価制度の構築や改定のご支援を行っていますと、運用段階で「上司が部下に評価結果をうまくフィードバックできていない」というご相談をいただくことがあります。よくお聞きするのは、「面談で結果を伝えても、部下の納得感が薄い」「面談で握ったはずの課題に部下が取り組んでいない」といった声です。多くの場合、問題は「伝えたつもりになっていること」にあります。上司が一方的に話すだけでは、面談の内容は部下の頭の中に「自分ごと」として落ちていきません。部下が自ら考え決めたことだと感じられてこそ、面談で握ったことが次の行動に繋がっていきます。
「伝えたつもり」を防ぐためには、上司が一方的に説明するのではなく、部下の言葉を引き出し、その理解や認識を確認しながら対話を進めることが重要です。そのために必要なのが、部下への問い方と聴き方、この2つの実践スキルです。以前のブログで「人事評価のフィードバック面談3つのポイント」では、面談のあり方や伝え方の基本をご紹介しました。今回はその続編として、面談中に意識したい問い方と聴き方の2つの実践スキルに絞ってお伝えします。
■問い方:「チャンクダウン」で具体に降ろす
問い方には、コツがあります。部下の頭の中には「もっと頑張りたい」「もっとお客様に貢献したい」といった、まだ行動に落ちていない漠然とした思いがあります。そのままでは面談後の行動に繋がりません。こうした抽象的な状態を、問いを重ねて具体的な行動レベルまで降ろしていく技術を、コーチング領域ではチャンクダウンと呼びます。チャンクとは「塊」のこと。ぼんやりとした塊を問いによってほぐし、部下自身が「いつ、何を、どうやるのか」を描けるレベルまで具体化していくのがチャンクダウンの考え方です。上司から与えられた指示ではなく、部下自身が自分の言葉で具体化したアクションだからこそ、納得感も実行意欲も高くなります。
実践のコツは、部下から抽象的な言葉が出てきたら、そのまま流さず、5W2H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように・どれくらい)を切り口に、一段具体化する問いを返すことです。たとえば、次のような展開です。
・部下「なるべく早く対応します」 →「『なるべく早く』とは、だいたいいつ頃?」「まず何から動く?」
・部下「高い目標を持ちたいです」 →「『高い』とは、何と比較して?」「数字で言うとどれくらい?」
実際の面談では、その場で適切な質問を考えるのは容易ではありません。そこで役立つのが、「具体的には?」「他にはどんな方法が?」といった汎用的な掘り下げフレーズです。こうしたフレーズを手札として持っておくと、現場でも質問に詰まりにくくなります。面談の場でチャンクダウンを組み立てる際は、次の4段階で進めるとリズムよく問いを重ねられます。
②方向性や打ち手を考える:「達成にあたって何がネック?」「例えばどうやって進める?」
③行動レベルまで具体化する:「いつまでに、どこで、誰に対して、どれくらい?」「まずは何から動く?」
④本人の意思表示を促す:「面談を通じて、今後どうしていきたい?」
①〜③で抽象を具体に降ろし、④で本人の口から決意を語ってもらうイメージです。コンサルティングの現場では、④まで辿り着かずに面談が終わってしまうケースが非常に多く見受けられます。最後の一問まで丁寧に投げかけることが、面談後の行動を引き出すうえで肝要です。
■聴き方:「アクティブリスニング」で受け止める
問い方のスキルがあっても、部下の答えをきちんと受け止められなければ、部下は「ちゃんと話しても伝わらない」と感じ、本音を出さなくなります。問い方とセットで意識したいのが、聴き方です。そこで、意識したいのはアクティブリスニング(積極的傾聴法)です。ただ黙って耳を傾けるのではなく、「あなたの話を聴いていますよ」というメッセージを能動的に発信しながら聴く姿勢のことを指します。
コミュニケーションにおいて、相手に伝わる印象のうち言葉そのものが占める割合は7%にすぎず、残りの93%は表情・視線・姿勢といった視覚情報や、声の抑揚・話すスピードといった聴覚情報が占めるとも言われています(メラビアンの法則)。つまり、上司がどれだけ内心で「聴いている」と思っていても、動作と言葉で示さなければ部下にはその姿勢は伝わりません。アクティブリスニングは、この2つの観点で実践できます。
動作で示す所作としては、次の4点が基本です。
・身体を部下のほうに向ける
・目を見る(書類ばかり見ない)
・うなずく
・あいづちを打つ
逆に、次の所作は「聴いていない」というメッセージになるので避けるべきです。
何かをしながら聴く(PC・スマートフォンを触る、資料をめくる)
・相手の話の腰を折る
・椅子にもたれかかって聴く
・腕組み、肘付き、足組み
言葉で示す所作は次のように整理できます。
・オーム返し:「それは○○ということだね」と部下の言葉をそのまま返す
・確認質問:「それは○○という意味で合っている?」と要点を握り直す
・同意:「なるほど、確かにその通りだね」と受け止める
・まとめ:「今の話は○○と××の2つが重要ということだね」と整理する
・展開:「そう考えると、○○することもできるね」と話を前に進める
特にお勧めしているのがオーム返しとまとめの2つです。オーム返しは、部下の言葉を一度受け止めたうえで返すシンプルな所作ですが、部下からすれば「自分の言葉がちゃんと届いた」と感じる効果が大きく、信頼関係の土台になります。まとめは、話が抽象的になりがちな部下に対して、上司が論点を整理して返すことで、部下自身の頭の中も整理されていくという効果があります。
アクティブリスニングは、技術として知れば誰でも今日から実践できる所作です。一方で、頭で理解していても、いざ面談の場になると評価結果の説明にばかり意識が向かい、聴く所作が抜け落ちてしまう評価者の方は少なくありません。研修や日々の面談の前に所作を確認しておくだけでも、聴き方の質は確実に変わってきます。
評価結果を正確に伝えることに加え、部下への問い方と聴き方の意識が、フィードバック面談の手応えを大きく変えます。上司が「伝えた」と思うことと、部下が「理解し、自分ごととして受け止めた」こととの間には、しばしば大きな隔たりがあります。その隔たりを埋めるのが、問い方と聴き方です。チャンクダウンで部下の言葉を具体に降ろし、アクティブリスニングで部下の言葉を受け止める。この2つの実践スキルを評価者の皆さまに意識いただくだけでも、面談の質はずいぶん変わってくるはずです。次回の評価面談の機会に、ぜひ社内の評価者の方に共有してみてください。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
