等級制度における“飛び級”のリスクと対応策

最近、お客様より“飛び級”のご相談をいただくことが増えています。“飛び級”とは、等級制度における昇格について、通常通り一つ上の等級に昇格するのではなく、一つ以上の上位等級を飛ばして、昇格させる仕組みです。
 
その背景には、「能力の高い若手社員を早期抜擢したいが、通常の昇格ステップではスピードが遅い」「経営陣や管理職層の高齢化が進み、若手社員を一段階ずつ昇格させている余裕がない」といった悩みがあるようです。他にも筆者が実際に人事制度改定を支援した企業では、等級制度改定に伴う社員説明会や個別面談の際に、「この制度には“飛び級”は無いのか」といった質問が複数出ていました。特に自身の成長スピードと現在の格付けとのギャップを感じやすい優秀な若手社員ほど、この質問をされるそうです。
 
飛び級は、高い成果を上げる社員に報いたり、若手の早期育成を通じた組織の新陳代謝を促したりする有効な手段となりえます。しかしながら、運用にはいくつかのリスクが伴います。本稿では、飛び級を導入した際に引き起こしやすいリスクを整理し、対応策を解説します。

 

 
1.期待役割の急激な変化によるリスクとその対応策
1つ目は、飛び級による期待役割の急激な変化に、本人が追随できないというリスクです。飛び級によって上位等級に昇格すると、求められる業務範囲と期待される成果の水準は一段と高度になります。そのため上司の求める期待に反して、想定したパフォーマンスが発揮できない可能性があります。さらに部下を持つ場合には、適切な判断ができず誤った指示・指導で現場を混乱させてしまう恐れがあります。このような状況では本人だけでなく、周囲のメンバーの生産性やモチベーションを損ねるリスクもあります。あるいは、人によっては、飛び級したことをプレッシャーに感じ、パフォーマンスが落ちる、ひいては退職につながることもあるかもしれません。
 
そこで、上位等級相当の役割を一定期間暫定的に付与し、その期間を通じて期待するパフォーマンスを出せそうかを確かめたうえで“飛び級”の最終判断を下す仕組みを設けることが有効です。役割をクリアできれば正式昇格、難しい場合は据え置きに軌道修正する選択肢を残すことで、組織の混乱を未然に防ぐことができます。やみくもに正式な昇格を急がずにリハーサル期間を設けることで本人・組織双方のリスクを最小化できるでしょう。
 
 
2.運用の偏りによる公正性リスクとその対応策
2つ目は、飛び級の適用に偏りが生じ、社員からは不公平な運用に見えてしまうというリスクです。飛び級の対象者の決定は本人の能力・成果よりも組織上の都合――たとえばある部署では中堅層が多く活躍しているものの、他の部署では高齢化により新陳代謝が急務であるといった特定部署の年齢構成や人員補充の緊急度――が優先されれば、同等の実績を挙げていても部署によって扱いが異なる事態が起こりがちです。こうした格差は、非対象者のモチベーションを下げるだけでなく、制度そのものへの不信を招きかねません。
 
これに対しては、飛び級や昇格を会社判断で実施するというルールを明確にしておくとともに、特に管理職には、部下からの質問に適切に回答できるよう周知することが重要です。あるいは、社員の役割レベルや職務内容に応じて等級を決定するという考え方は、役割等級や職務等級に通じるものがあります。であれば、役割等級あるいは職務等級の仕組み自体を見直しするのも一案です。
 
 
おわりに
飛び級は適切に運用すれば効果的な施策ですが、示したリスクに対する対応策を伴わなければ、かえって制度不信や混乱を招くことになります。本稿で提示した対応策を組み込んだうえで、飛び級の活用を検討されてはいかがでしょうか。

 

執筆者

松本 真樹 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職ではIT企業のカスタマーサクセス部門にて顧客人事部門の業務改善に取り組む。
現場の”人”に関する課題に多く触れる中で、組織における人事評価機能の重要性を体感する。
納得度が高い人事評価実現のための制度構築・運用を支援したいと考え新経営サービスに入社。
顧客に寄り添ったコンサルティングを心掛けている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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