育休取得者を「支える同僚」にどう報いるか?
人事制度
近年、政府は「2030年までに男性育休取得率85%」を目標に掲げ、育休取得に関する政策を推進しています。これに呼応して、多くの企業では制度の拡充を含めた育休を取得しやすい環境の整備に取り組んでいます。
一方で社員が育休を取得することにより、職場内の同僚への業務負荷が高まり、不満や不公平感を招いているという企業も増えているのではないでしょうか。内閣府が発表した「令和5年版男女共同参画白書」によると、育休代替要員を「十分確保できている」と回答した企業はわずか34%にとどまっており、多くの企業では育休取得によるしわ寄せが常態化しているものと想像できます。また筆者の支援先からは、同僚へのしわ寄せを懸念し育休を計画よりも早めに切り上げた社員がいる、という話も聞きます。本稿では育休取得者と同僚がともに働きやすい職場に向けて、育休取得を「支える同僚」における業務負担の高まりに対してどのような報い方ができるかを解説します。
報い方①「直接的」な処遇(金銭の支給)
報い方の1つ目として、一時金や特別手当等の金銭の支給が挙げられます。大手保険会社の三井住友海上火災保険では、社員が育休を取得する際、本人が所属する職場の人数規模や取得期間に応じて、育休取得者の周囲の同僚を対象に最大10万円の一時金を支給することを発表しました。(注1)特に中小企業では部署内の人数が少ないことが多いため、育休を取得することの影響が大手企業と比較して大きくなりやすいです。そこで育休取得者の同僚における業務負荷の高まりに対して、直接金銭で報いてしまおうという考え方です。
ここで重要となるのが、支給ルールの設計です。具体的には、支給条件および支給金額について、職場の人数規模や、育休取得者の育休取得期間等により異なるものとするのか。あるいは支給方法を一時金とするのか、毎月の手当とするのか等です。ただし、細かなルールを作りこみすぎることで、かえって現場で使いにくくなってしまうこともあるので、現場での分かりやすさを重視することが肝要でしょう。
報い方②「間接的」な人事評価への加点
報い方の2つ目として、人事評価への加点反映が挙げられます。これは、人事評価制度において加点欄を設けるとともに、期末の評価実施時に対象者の業務負荷増加への貢献に対して活用するというやり方です。対象となる組織によっては、同僚の育休取得によって業務負荷が高まるとはいえ、残業手当以上の金銭を受け取ることはむしろ後ろめたい、会社から頑張りを認めてもらえたら、それで十分だと思う方が多いかもしれません。その場合、人事評価への加点反映にくわえて、フィードバック面談において労いをしっかり伝える方が、同僚の不満解消に向けて効果的だといえるでしょう。
一方で金銭の支給同様、加点反映の基準設計を行う必要があります。具体的には、業務負荷の程度に応じた点数付与が考えられます。しかし、業務負荷を直接判断することは難しいため、職場の人数規模の少なさや育休取得者の取得期間の長さ等を基準として判断することが一般的です。また、人事評価に加点反映する場合、加点のプロセスや処遇への反映方法等について社員の理解が不十分であれば、新たに加点反映の仕組みを追加しても、十分な効果が得られない点に留意してください。
まとめ
育休取得者を「支える同僚」への報い方について、2つの方法を述べました。重要なのは、育休を取得したい人が同僚へ遠慮することなく希望通りの期間で取得できること、育休取得者の同僚も気持ちよくそれを支えられることです。育休取得者を支える同僚に対して、自社としてどう報いるのかを検討してはいかがでしょうか。
(注1)2023年3月17日付ニュースリリース 育休職場応援手当(祝い金)の創設
https://www.ms-ins.com/news/fy2022/pdf/0317_1.pdf
執筆者

松本 真樹
(人事戦略研究所 コンサルタント)
前職ではIT企業のカスタマーサクセス部門にて顧客人事部門の業務改善に取り組む。
現場の”人”に関する課題に多く触れる中で、組織における人事評価機能の重要性を体感する。
納得度が高い人事評価実現のための制度構築・運用を支援したいと考え新経営サービスに入社。
顧客に寄り添ったコンサルティングを心掛けている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。