“仕事主義”人事制度が求められる背景②

前回のブログでは、今後の日本企業において、”仕事主義”人事制度、すなわち「職務主義」や「役割主義」の人事制度の導入が進んでいくと推察される背景として、日本企業を取り巻く「4つの組織的課題」を挙げました。
今回のブログでは、その4つの課題のうち、”仕事主義”人事制度の導入に最も拍車をかけるであろう「3.採用競争力の強化(の必要性)」について、もう少し詳しく解説していきます。
 
既に多くの日本企業にとって「人材不足」は大きな問題となっていますが、少子高齢化に歯止めがかかる見込みがない以上、今後はさらに一層、人が採りづらくなっていきます。特に、若手で優秀な人材については、たとえ大手企業や有名企業であっても採用が厳しくなっていくでしょう。小生のクライアントのうち中堅クラス以上のお客様からも、優秀な理系学生の新卒採用が年々厳しさを増していると伺っています。
このような状況の中で、採用面におけるライバル企業との人材獲得競争に打ち勝ち、若手社員や優れた社員を安定的に確保するためには、やはり賃金水準は重要なポイントになります。もちろん、学生や転職者が入社企業を決めるにあたっては、賃金水準だけが理由になるわけではなく、会社の規模や知名度、入社後の仕事内容や会社の雰囲気、ブラック企業でないかどうか・・・など様々な要素が判断材料になります。ただ、金銭的価値だけでなく、自身の「市場価値」や自身への「期待価値」でもある賃金水準については、特に重視されることになります。
従って、年功的な賃金制度、すなわち年齢や経験を積まないと賃金が上がっていかない仕組みについては、今後、優秀な若手人材の獲得活動において大きなボトルネックになるでしょう。なぜなら、優秀な若手人材にとって、そのような仕組みは”魅力的ではない”からです。年齢や勤続年数に関係なく、市場価値の高い能力やスキルがあれば最初から難しい仕事を担当することができ、かつそれに相応しい(高い)賃金をもらえる会社に入社するはずです。だからこそ、昨年・一昨年あたりから、一部の先進IT企業や大手企業が、先んじてそのような賃金体系を導入し始めているのです。
かつての日本社会であれば、同じ会社に長く勤めることが多くの労働者にとって”当たり前”であったため、若い頃は賃金が安くても、年齢や経験を重ねることで賃金も上がっていくことが制度的・慣行的に保障されていれば、若い社員の不満にはつながりませんでした。しかしながら、欧米ほどではないにしろ、昔と比べれば転職が盛んになった現代においては、年齢・経験に関係なく能力・スキルに応じた高いレベルの仕事を付与し、それに見合った賃金を”リアルタイム”で支給しないと、人材獲得競争で他社よりも優位に立つことが極めて難しくなっているのです。
 
アメリカを筆頭とした欧米諸国では、いわゆる「職務主義」の人事制度が主流となっています。また、労働者の転職は日本の何倍も積極的に行われています。すなわち、「職務主義」と「労働者の転職」というのはセットの関係にあります。今後、アメリカほどの転職社会になるかどうかはともかく、既に日本社会においても”より高い仕事”と”より高い賃金”を求めて労働者が転職していくという流れは浸透しつつあります。そのような社会的変化の中で、他社よりも優れた人材を採用するために、「現在の仕事の価値・レベルで処遇する」仕組み、すなわち”仕事主義”人事制度への転換が、今後の日本企業ではさらに進んでいくものと考えられます。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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