二項対立で考える②

二項対立①(https://jinji.jp/template_cms/hrblog/strategy/1381/)に引き続き、人事戦略や施策を検討するときによく直面する二項対立をご紹介したい。前回は「時間軸」として「短期的な視座」と「中長期的な視座」について触れたので、今回は「空間軸」として、「全体」と「要素」について触れたいと思う。
 
まず、「要素」について。
これについて「要素還元主義」という考え方をご存知だろうか。ウィキペディアによると、要素還元主義とは、「複雑な物事でも、それを構成する要素に分解し、それらの個別(一部)の要素だけを理解すれば、元の複雑な物事全体の性質や振る舞いもすべて理解できるはずだ、と想定する考え方」である。例えば、評価制度について当てはめてみると、求める人材という全体を、評価項目や評価基準という要素に分解して、各項目に対する評価点数を積み上げると、その評価対象の社員の評価(求める人材の充足度合い)をあらわすという考え方と言える。ある意味、評価制度の世界では当たり前の考え方とも言える。しかしながら、評価点数は高いがもう少し頑張ってほしい、評価点数は低いがもっと高くてもよいといったことが起きうる。つまり、その評価点数が社員の貢献度合いすべてを表現しているとは必ずしも言えないというのも現実としてあるのではないだろうか。あるいは、昇格要件として、評価点数もクリア、試験もクリア、資格も取得している。けれども昇格は見送りたいというケースも現実にはあり得るのではないだろうか。
 
一方、「要素還元主義」に対して「全体論(ホーリズム)」という考え方がある。ウィキペディアによると、「ホーリズム(Holism)とは、ある系(システム)全体は、それの部分の算術的総和以上のものである、とする考えのことである。あるいは、全体を部分や要素に還元することはできない、とする立場である」とある。つまり、評価項目・基準をいくら精緻に設計して積み上げても、あるいは昇格要件をいくら緻密に設定し総合しても、必ずしも対象となる社員のすべてを表現しているとは言えないとする考え方である。だからこそ、評価者の裁量部分や総合評価として勘案する部分を残しておく方が逆に公正な評価や昇格を行えるという側面がある。あまりにも精緻に制度を作り込み過ぎないこともまた重要である。もちろん、裁量部分や総合評価だけで決めてしまうのも早計である。ある程度の要素や根拠の積み重ねと、全体の裁量のバランスが重要なのである。
 
人事戦略や施策を検討するにあたり、この「全体」と「要素」のバランスをいかに図るが重要と言える。

執筆者

飯塚 健二 
(人事戦略研究所 副所長)

自社の経営に携わりながら、人材・組織開発、経営計画策定、経営相談など、幅広くクライアント業務に従事。中小企業から大手企業まで規模・業界を問わず、17年以上の幅広いコンサルティング実績を持つ。これまでに培った実践知と学際的な理論知(社会科学、認知科学、行動科学、東洋哲学等)を駆使しながら、バランス感覚を備えた、本質的・統合的・実践的なコンサルティングを行う。一社一社に真摯に向き合い、顧客目線に立った支援スタイルを信条とする。
キャリアコンサルタント/GCDF-Japanキャリアカウンセラー
iWAMプラクティショナートレーナー

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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