日本における”●●主義”人事制度の変遷 ~仕事主義人事制度の台頭時期~
賃金制度
前回のブログでは、今後の日本企業において、”仕事主義”人事制度の導入が進んでいくと推察される背景のうち、”仕事主義”人事制度の導入に最も拍車をかけるであろう「採用競争力の強化(の必要性)」について、詳しい解説を行いました。
今回のブログでは、日本企業において”仕事主義”人事制度がいつ頃台頭し始めたのかについて、過去の人事制度のトレンド(=日本企業における”●●主義”人事制度の変遷)も含めて解説します。(※なお、本テーマについては様々な見解・捉え方がありますが、ここでは一般的な情報に基づく小生の認識をベースに解説しますので、ご留意ください。)
■ ~1990年代前半頃
⇒【年功主義】人事制度
・年齢や勤続との関係が強い職能資格制度
・年齢給/勤続給と(評価でメリハリのつかない)職能給
・情意評価と保有能力評価
■1990年代後半~
⇒【能力主義】人事制度
・(年功よりも)能力にフォーカスした能力等級制度
・評価でメリハリがつく能力給
・発揮能力評価
■2000年代後半~
⇒【成果主義】人事制度 ・・・その一環としての【仕事主義】人事制度
・役割等級制度、職務等級制度
・役割給/職務給、洗い替え給、メリハリの強い賞与
・成果評価、目標達成度評価
1990年代の前半頃までは、いわゆる「年功主義」が日本企業における人事制度の主流でした。具体的には、等級制度としては年功的な要素の強い職能資格制度(≒能力等級)、給与としては安定昇給が約束された年齢給や勤続給が主でした。
その後、バブル崩壊を境として、単なる年功ではなく、より「能力」にフォーカスした能力主義の人事制度が主流になっていきました。具体的には、等級制度としては能力等級、給与としては評価によってメリハリがつく能力給になります。かつての年功主義と比べれば、実際に仕事で発揮している能力が(制度の基本的考え方として)重視されるようにはなったものの、すべての能力を細かく把握できるわけではないため、結果的には「年功的」な仕組みと大きくは変わらないケースも多々ありました。なお、この「能力主義」人事制度については、依然として日本企業における主流となっています。
バブル崩壊後の不景気が顕著となった1990年代後半から2000年代かけては、いわゆる「成果主義」の人事制度を採用する企業が急速に増加し、仕事の「結果」を重視した人事制度が採用されるようになりました。具体的には、目標管理制度を中心とした成果/業績評価であったり、評価結果で大きく変動するメリハリの強い昇給・降給制度、賞与制度などです。
その後、2000年代後半から、成果主義人事制度への流れを受けて、今回のテーマである「仕事主義」人事制度、特に「役割主義」人事制度を採用する企業が日本でも増え始めました。理由としては、人件費の適正化(要は削減)を目指すための手段として、結局は年功的に処遇が上がってしまう能力主義人事制度を廃止し、実際に担っている「役割」で処遇を決定する仕組みが採用されるようになったためです。
このように、「仕事主義」人事制度が日本で取り入れるようになったのは、実はこの10年、15年くらいの話になります。また、上述した通り、「仕事主義」人事制度とは言っても、現在の日本企業においては「役割主義」人事制度が大半であり、厳密な意味での仕事主義である「職務主義」の人事制度については、まだまだ浸透していないというのが現状です。
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執筆者

岩下 広文
(人事戦略研究所 上席コンサルタント)
1999年大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。
人事コンサルティング歴は20年以上にわたっており、人事制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における多様なテーマでのコンサルティング経験を有する。
また、過去に担当したクライアントの規模も、中堅・中小企業から数千名の大手上場企業までと、広範にわたっている。
きめ細やかな制度設計と顧客の実状を踏まえた提案・助言に定評がある。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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