社員の等級を社内公開する効果

人事制度の導入・改定において重要なテーマのひとつが「制度の浸透」です。導入・改定を検討する際、例えば「社員に求める役割を明確にし、会社の目標と組織の方向性を一致させたい」といった目的があると思います。このような目的達成のためには、人事制度を経営者や人事部門、導入担当者だけでなく、社員がきちんと理解し行動変容させることで初めて成果が生まれ、目的達成に効果を発揮します。人事制度を組織全体に浸透させ、社員の行動変容につなげる施策の中でも、各社員の等級を社内で公開することは大きな力を持つと考えます。
 
一方で「他社員の等級を知ることで、社員の不満につながるのではないか」といった懸念が先に立ち、等級公開の是非について十分検討できていない企業も多いのではないでしょうか。本ブログでは、その検討の一助になるよう社員の等級を公開することが人事制度の浸透にどう寄与するのか、その効果について解説します。
 
効果①人事制度の「自分ごと化」
新しい人事制度が導入される際、社員と人事制度の接点は制度説明会やその後年1~2回の評価のタイミングに限られます。そのため、浸透に時間を要することが想定されます。
例えば人事異動の全体通知や、タレントマネジメントシステム等を用いて社員名簿にアクセス出来るようにすることなどにより、等級が公開されていると、人事制度の内容が社員にとって身近な存在となり「自分ごと化」につながると考えます。日常的に自身の等級と接することで、求められる役割や組織内での立ち位置を把握しやすくなり、人事制度への意識が高まりやすくなります。
 
効果②人材レベルとキャリアパスの「具体化」
等級を公開することで、社員は各等級の実在者を知ることができます。これにより等級や今後のキャリアパスへのイメージを「具体化」することができます。人事制度導入・改定時には等級基準などその等級に求められる要件などを記述した資料を作成することになります。しかし、その資料を見ただけでは深く理解できず、キャリアパスのイメージが湧きにくいといった社員からの反応が想定されます。等級を公開することで上位等級者や成果を出している同僚など実在者を通して等級に触れることができ、「○○ができると一つ上の等級レベルである」のイメージを「具体化」でき、結果として人事制度の浸透につながります。
 
補足:「見える化」で公正な姿勢を示すことは、会社への信頼感向上にもつながる
ここまで人事制度の浸透という観点で等級公開について述べましたが、等級公開含め人事制度運用の「見える化」は、社員の昇降格といった処遇決定について、透明性高く公正な姿勢を示すことになります。そのような社員への姿勢は、「経営者や人事部が好き嫌いで等級・評価を決めているのではないか」という疑念の発生を予防することにつながります。等級を公開しない運用をしたとしても、社員同士で情報は共有され伝播していくことも多々あるのではないでしょうか。あらぬ疑念が生じる前にオープンに示す方が結果として会社への信頼感向上にもつながることもあるでしょう。
 
ただし、冒頭で述べたように等級公開には社員の不満や組織内のハレーションを引き起こすリスクもあります。公開するのであれば、定めた基準やルールに基づいた公明正大な姿勢で人事制度運用に取り組むことが肝要です。

 
まとめ
上記で社員の等級公開は、「自分ごと化」「具体化」により人事制度の浸透に効果があることを述べました。
せっかく時間をかけて等級基準や昇格の仕組みなど人事制度の在り方を考えたとしても社員に浸透せず社員の行動に変化が無ければ、導入・改定が成功したとは言えません。社員に制度が浸透することで、人事制度で果たしたい目的の達成にも近付きます。人事制度の導入・改定を機に各社員の等級公開を前向きに検討してみることを推奨します。

 

執筆者

松本 真樹 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職ではIT企業のカスタマーサクセス部門にて顧客人事部門の業務改善に取り組む。
現場の”人”に関する課題に多く触れる中で、組織における人事評価機能の重要性を体感する。
納得度が高い人事評価実現のための制度構築・運用を支援したいと考え新経営サービスに入社。
顧客に寄り添ったコンサルティングを心掛けている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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