“仕事主義”の人事制度が浸透しづらい理由①

前回のブログでは、日本企業において”仕事主義”の人事制度がいつ頃台頭し始めたのかについて、過去の人事制度のトレンド(=日本企業における”●●主義”人事制度の変遷)も含めて解説を行いました。
今回のブログからは、”仕事主義(=職務・役割主義)”の人事制度が日本企業でなぜ浸透しづらいのか、その理由について具体的に解説していきたいと思います。
 
日本企業においては、「仕事主義(=職務・役割主義)」の人事制度の導入割合が、依然として「能力主義」の人事制度を上回るに至っていない状況にあります。より詳しく述べれば、「仕事主義」人事制度の中でも、「役割主義」人事制度については管理職を中心にかなり浸透していますが、一方で、一人ひとりの仕事で処遇を決定する「職務主義」の人事制度については、アメリカなどの欧米企業では当たり前の制度ではあるものの、日本ではまだまだ浸透していない状況にあります。
それでは、なぜ日本企業においては、アメリカなどの欧米企業と比べると、「仕事主義」とりわけ「職務主義」の人事制度が浸透しづらいのでしょうか?その理由としては、筆者の見解・推察になりますが、具体的3つの理由が考えられます。今回のブログでは、このうち1つ目の理由について解説を行います。
 
「仕事主義(特に職務主義)」の人事制度が日本企業で浸透しづらい1つ目の理由は、これまでの日本企業で主流となっている「ヒト主義」の考え方と、本稿テーマである「仕事主義」とでは、「社員」と「仕事」の関係が大きく異なるという点です。これは、既に解説してきた通りです。これまでの「ヒト主義」の人事制度では、「社員の長期雇用と育成」という考え方が人材マネジメントの中軸をなしていました。従って、社員を採用した後、一人ひとりの社員の適性や志向を踏まえた上で仕事を割り与え、その後、その仕事を通じて社員を育成していき、成長した社員にはその能力に応じたより難しい仕事を付与していく・・・・・・という流れでした。すなわち、「ヒト(社員)に仕事を割り当てる」という考え方です。少しイメージしづらいかもしれませんが、典型的な例が、数十名の新卒社員を一括で採用する場合です。採用する時点では具体的な仕事が決まっていないケースが日本企業では大半であり、この場合、採用した後に社員ごとに具体的な仕事を割り当てることになります。
 
逆に、今回のテーマである「仕事主義」の人事制度の下では、特に「職務主義」人事制度の場合、最初から社内の仕事の区分が明確になっており、その中で空きが出た仕事に対して、その仕事を担うに相応しい経験や知識・能力等を有した社員を採用することになります。すなわち、「仕事にヒト(社員)を割り当てる」という考え方です。アメリカなどの欧米企業では、日本のように学生を「新卒一括採用」する仕組みというのはありません。従って、基本は通年採用であり、日本の大学生のような就職活動もありません。これは、日本のように「ヒトに仕事を割り当てる」のではなく、「仕事が空いた場合にヒトを割り当てる」からです。(※ではどうやってアメリカの学生は仕事を見つけるのかということですが、長期のインターンシップの中で実務経験を積んでから、そこでチャンスを得て入社していくそうです。)
当然、中途採用の場合は、よりその傾向が強くなります。日本企業の場合、特に20代くらいまでであれば、中途採用であっても採用活動時点では具体的な仕事を特定しないケース(総合職として採用)や、全くの未経験者をポテンシャルにフォーカスして採用するケースがあります。これは、長期雇用とその中での育成・配置転換が前提となっているからです。一方、アメリカなどの欧米企業では、そのような採用はほとんど皆無ではないでしょうか。
 
このように、これまで多くの日本企業が採用してきた「ヒト主義」と、欧米では主流である「仕事主義(特に職務主義)」とでは、人材マネジメントにおける根本的な考え方が大きく異なっています。その結果、日本企業にとっては、これからを見据えて「仕事主義」の人事制度を採用したくても、実際に採用するとなると上手く機能させるためのハードルが非常に高いため、依然として多くの企業が「仕事主義(特に職務主義)」人事制度の採用に至っていないのです。これが、「仕事主義」人事制度が日本企業で広く浸透していない1つ目の理由になります。
 
次回のブログでは、「仕事主義」の人事制度が日本企業で浸透しづらい2つ目の理由について、具体的な解説を行いたいと思います。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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