人事制度運用時に困らない!設計時に検討・工夫しておくべき点を解説

人事制度を設計する際は、目的に沿った理想的な制度を目指して設計を進めていきます。しかし、弊社にご相談があった企業様の中には、制度の運用ルールの複雑さや不明確さにより、運用に苦労されているケースがあります。そのようなケースの中には、制度設計時にあらかじめ考慮することで問題を未然に防げる場合も見受けられます。そこで今回の記事では、人事制度を設計する際に、“運用を見据えて“検討・工夫しておくべき点について、いくつかご紹介します。
 
1.等級制度上の検討・工夫しておくべき点の例
 ①昇格基準や昇進基準は一定の柔軟性を持っているか

昇格基準や昇進基準の要件としてよく挙げられるものには、人事評価結果や滞留年数、上司推薦、論文提出や面接試験、資格保有などがあります。一般的に、これらの要件を複数組み合わせて設計されることが多いでしょう。しかしながら「この基準をすべて厳密に満たす」というルールにしておくと、わかりやすく明確である一方、ルールに縛られ、柔軟な人員配置や組織編制に支障が生じることがあります。そこで工夫しておくべき点として、ルールは定めるものの、これらの基準は参考として「総合的に判定する」という形に留めておくことで、柔軟に運用できるようになります。ただし、この方法は判定基準が曖昧になるというデメリットもあるため、自社の意思決定のあり方(ルールに基づいて意思決定するか、柔軟に裁量を持って対応しているかなど)、あるいは組織の人員構造(人手不足で早く昇格させないといけないかなど)も考慮して設計しておく必要があります。

 
 ②昇格や昇進の手続きができる状態になっているか

あらかじめ、昇格や昇進の手続きができる状態になっているかを確認しておくことも大切です。

・人事評価結果や滞留年数が、管理・集計がしやすい状態になっているか(ツールも活用しながら)

・上司推薦をするための推薦書類の整備ができているか、その内容が複雑すぎないか

・論文提出や面接試験を実施する場合、テーマをあらかじめ設定できているか

・資格保有要件がある場合、判定開始前に最新状況を把握できるような段取りができているか

また最終的に、昇格や昇進の決定時期に間に合うスケジュールとなっているかも確認しましょう。

 
2.評価制度上の検討・工夫しておくべき点の例
 ①期中の異動や入社・休職・復職の対応方法が明確になっているか

期中の異動や入社・休職・復職などが発生したときに備え、それらに柔軟に対応しつつもパターン別に対応方法を明確にしておくと良いでしょう。よく見られる対応方法として、期中の異動については、(1)評価期間において所属期間の長い部署で評価する (2)異動前後の部署でそれぞれ人事評価を行うが、所属期間でウェイトを設定する などが挙げられます。また、期中の入社・休職・復職については、「評価期間において〇ヶ月以上勤務している場合は通常評価を行い、〇ヶ月未満の場合は標準評価として評価する」などが挙げられます。これらをあらかじめ検討しておくことで、急な事象が生じてもスムーズに対応することができます。

 
 ②評価期間と処遇反映時期を想定できているか

人事評価結果が確定してから、給与改定や賞与、昇格、昇進などへ反映するまでの期間が短すぎる設定になっているケースがあります。新制度の検討段階で、スケジュールに無理が無いかをチェックしましょう。(1)評価開始から評価確定までに必要な時間、(2)評価を踏まえて処遇決定(昇進、昇格、給与、賞与)にかかる時間、(3)フィードバックにかかる時間、など自社の評価フローと必要期間を十分に検討しましょう。ここがタイトなスケジュールになると、人事担当者の負荷が大きくなります。どうしても間に合わない場合は処遇反映時期を遅らせるか、評価期間の終了を待たずに評価を付け始めてもらうかなどを検討する必要があります。

 
3.賃金制度上の検討・工夫しておくべき点の例
 ①給与改定や賞与の支給対象となる在籍期間のルールが明確になっているか

期中の異動や入社・休職・復職の場合における、給与改定や賞与の支給ルールは明確になっているでしょうか。運用をしやすくするためにも、都度対応を決めるのではなく事前に、給与改定基準や賞与算定式に則り満額支給するのか、期間分の支給とするのかなどを検討しておきましょう。

 
 ②各種手当の支給対象が明確になっているか

具体的な支給対象を明記しておくことで、認識齟齬によるトラブルを防ぐことができます。検討漏れをしやすいポイントとして、支給対象から外れる際の詳細な時期や、手順(支給対象の判定を人事部が行うのか、申告制にした上で定期的に確認するのか)も明確にしておくことが大切です。

 
 ③調整給を支給する場合、その詳細の対応方法を検討しているか

制度導入により給与が減少する方には、一定期間中は調整給を支給することがよくあります。その際、調整給が外れる際のルールが明確かをチェックしましょう。なお、移行ルールだけでなく、調整給が支給されている間に昇格や昇進、昇給ができるように、上司の指導やフォロー体制が十分に取れるようにすることも重要です。

 
以上のような観点から検討や工夫をすることで、制度導入後に急な対応で困ることなく、よりスムーズな運用に近づけることができるのではないかと考えます。
また新制度を導入した後は、方針に沿って運用がしっかりと行えているかについても定期的に確認しておきましょう。そして運用がしにくい箇所があれば運用面を見直す、あるいは人事制度の方針に沿う範囲で制度自体を見直すことを検討していくことが重要です。

執筆者

田中 花 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学では、地域に根差した企業活動について学び、製造・卸売・小売・飲食・農業協同組合へ事業に関するヒアリングを行う。
その中で、後継者問題等の業界課題や、企業と消費者の接点が少ない等の現状を知り、少しでも経営者の役に立てることをしたいと思い、新経営サービスに入社。
多様な経営課題を抱える中小企業の経営者に、「まず先に相談しよう」と思ってもらえる経営コンサルタントを目指し、日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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