若手社員の昇進意欲を高める方法

近年、「若手社員から昇進意欲が感じられない」「若手が管理職になりたがらず、人材育成が難しくなっている」という人事担当者の声を聞くことが増えています。こうした若手社員の昇進意欲の低下が深刻になると、将来的に管理職を担う人材が不足し、組織力の低下を招く可能性があります。

そこで、今回の記事では、どのようにすれば若手社員の昇進意欲を高められるのかについて考えていきます。

 

■昇進意欲のある若者はどの程度存在するのか

 

まず初めに、若者における昇進意欲の有無の割合を見ていきましょう。マイナビの「2025年卒大学生のライフスタイル調査(*1)」によると、2025年卒の大学生・大学院生のうち、「仕事のレベルを上げつつ、出世して管理職にもなりたい」が42.1%、「仕事のレベルは上げていきたいが、管理職にはなりたくない」が38.8%となっています。またその理由として、同調査(*1)によると、「あまり責任は持ちたくない」「管理職は忙しいと思っている」「自分の好きな仕事ができていれば、出世するかどうかは関係ないと感じているから」「(前略)仕事は増えるのに給料はあまり変わらないという社会人のリアルな声を聴いたことがあるため」などが挙げられました。

つまり仕事のレベルを上げたいという仕事への意欲がある学生のうち約半数は昇進意欲が低く、管理職に対してマイナスイメージを持つ学生が一定数存在すると考えられます。

 

■若手社員の昇進意欲を高める方法例

 

そこで、若手社員の昇進意欲を高める方法として3つご紹介します。

 

1.管理職の年収水準の妥当性を検証する

前述の通り、若手社員の昇進意欲を妨げている要因の一つに、仕事は増えるのに給料は変わらない(という認識がある)ことが挙げられます。そこで、まずは「昇進することで給与が上がる仕組みになっているか」「実態として年収が高い状態にあるか」を改めて確認しておきましょう。例えば残業手当を含む年収において、残業手当の支給対象外となる管理監督者が、残業手当の支給対象者より高い年収水準にある必要がありますが、実際はそうなっていないケースが見受けられます。いわゆる「管理職と非管理職の給与逆転現象」です。この問題を放置すると、社員の間に「昇進して管理職になると、労働時間は変わらないもしくは増えるにも関わらず、給与が変わらないもしくは下がる」「責任だけが重くなる」というイメージが根付いてしまいます。そのイメージを払拭するためには、管理職の年収水準が、十分に魅力を感じられるものになっているかを検証し、必要に応じて見直しを行いましょう。

 

2.若いうちから昇進できる階段を作る

2つ目の観点として、入社してから昇進に至るまでの期間の長さが、昇進意欲に影響を与えている可能性があります。労務行政研究所の「等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態(*2)」によると、「想定される最短登用年齢の平均は、係長クラス30.4歳、課長クラス35.5歳、部長クラス42.1歳。在職者の平均年齢は、係長クラス43.6歳、課長クラス48.0歳、部長クラス52.7歳」となっています。Z世代の社員から見て、この「昇進までの期間の長さ」や「役職者の平均年齢」も、昇進の道筋を描きにくくさせている要因の一つではないかと考えます。

 

その「昇進までの期間の長さ」という問題を解消する方法として、役職階層を細かく設定し、若いうちから“役職”(ここでは「主任」や「チーフ」などのある種のステータス的な呼称を指し、組織的な役割があることを前提としていません)に就ける仕組みを作っておくことも一案です。例えば担当業務が一人前にできるようになれば「主任」や「チーフ」などの“役職”を付与し、成長実感を持てるようにします。早くから“役職”に就くことで、若手社員にとって成長実感を持てるだけでなく、昇進に対する心理的ハードルも下がっていくのではないでしょうか。

 

3.管理職になることの価値を感じる機会を作る

前述の調査から、若手社員にとっては管理職やリーダーに対してマイナスイメージだけが先行し、管理職やリーダーになるまでのプロセスやなることで得られる価値や成長に目を向けることができていない可能性があります。

そこで、リーダーとしてチームで一つのプロジェクトを成し遂げたときの達成感や、プロジェクトを進める中でできる成長を感じられるように、若いうちからプロジェクトリーダーを経験させる機会を提供していくことも一つの方法ではないでしょうか。また、ブラザー制度(※)などを通じて後輩の成長に関わることが、マネジメントの価値や自身の成長を実感することに繋がっていくかもしれません。

Z世代と呼ばれる若者は、自身がどう成長できるかに関心が強い傾向があるため、リーダーや後輩指導の経験を通じて自身の成長を実感できれば、その先の管理職になることへの関心も高まるのではないでしょうか。

 

※新入社員一人に対して、日々の実務や悩みを相談できる先輩社員を配置する制度

 

 

■まとめ

 

今回は若手社員の昇進意欲を高める3つの方法について言及してきました。採用難の時代を迎えている中で、採用した若手社員が定着し、いずれ組織を支える人材に成長できる環境を整えていくことは組織の維持・発展には欠かせません。そのため今一度、若手社員における自社の昇進や管理職に対する印象を確認し、昇進意欲を感じられる仕組みとなっているのかを検証してみてはいかがでしょうか。

 

 

参考文献

(*1)マイナビ、「2025年卒大学生のライフスタイル調査」P.9~11、2024年
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2024/01/s-lifestyle-25-000.pdf

(*2)労務行政研究所、「等級制度と昇格・昇進、降格の最新実態」P.14、2022年
https://www.rosei.jp/readers/article/83036

執筆者

田中 花 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

大学では、地域に根差した企業活動について学び、製造・卸売・小売・飲食・農業協同組合へ事業に関するヒアリングを行う。
その中で、後継者問題等の業界課題や、企業と消費者の接点が少ない等の現状を知り、少しでも経営者の役に立てることをしたいと思い、新経営サービスに入社。
多様な経営課題を抱える中小企業の経営者に、「まず先に相談しよう」と思ってもらえる経営コンサルタントを目指し、日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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