2024年最低賃金引上げの動きと今後
賃金制度
1:2024年の最低賃金は50円アップ
2024年7月25日に、中央最低賃金審議会から厚生労働大臣に対して答申が行われました。
既に大きく報道されていますが、各都道府県の引上げ額の目安は、ランクに関わらず、全国一律で50円(昨年は43円)とされています。目安通りに引上げが行われた場合、全国加重平均の最低賃金額は1054円を上回ることになり、目安制度開始以来、最高額の引上げとなります。
これを受けて各都道府県では徐々に答申があり、東京都では50円の引上げにより、最低賃金は1113円から1163円になる見込みです。また都道府県別差異の縮小を求める方針が示されている中、秋田県、新潟県では、54円、と目安を上回る答申がなされました。
8月末には全都道府県からの答申が出そろい、今年10月から適用されることになります。
2:最低賃金引上げの背景
昨今の最低賃金引上げの背景として、物価上昇や日本の平均給与の低さが挙げられます。例えば世界における日本人1人当たりの平均年収が24位($32,409≒470万円程度)と、先進主要各国の中でも非常に低い水準であることが明らかになっています。実際にアメリカでは$80,115(4位)、イギリス$53,538(15位)、ドイツ$52,226(16位)、韓国$35,063(22位)となっており、これらを下回っていることになります。(グローバルノート株式会社「世界の平均年収 国別ランキング」2024年7月10日)
これらを背景に、政府は今年6月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2024 (骨太方針2024)を閣議決定し、「物価上昇を上回る所得の増加を確実に実現する」という強い姿勢を示しています。
3:最低賃金の引上げは今後も続くのか
では、今後の最低賃金引上げの見通しはどうでしょうか。
これについては政府の骨太方針に、はっきりと示されています。
“最低賃金は、2023年に全国加重平均1,004円となった。公労使三者で構成する最低賃金審議会における毎年の議論の積み重ねを経て、2030年代半ばまでに全国加重平均を1,500円となることを目指すとした目標について、より早く達成ができるよう、労働生産性の引上げに向けて、自動化・省力化投資の支援、事業承継やM&Aの環境整備に取り組む。今後とも、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げるなど、地域間格差の是正を図る
上記によれば2030年半ばよりも前に、つまり10年以内に最低賃金を1,500円に引き上げることが明記されていることになります。もちろん政府方針だけで決定することではありませんので、今後審議をされながら実現していくものと考えられます。
2024年の最低賃金が目安通りに50円引き上げられた場合は全国加重平均が1054円、つまりあと10年間は、今年の引上げ額である「50円」またはそれ以上で推移していくことが見込まれます。
日本の平均給与は1990年代以降横ばいを続けており、企業にとっても給与水準を持続的に引き上げていく方向へ舵を切る、という意識に変えていくのは容易なことではありません。
しかしながら、前述の動きは止められません。どのようにして自社の付加価値を引き上げていくのかを考え、強い意志をもって動いていくことが、企業経営者に求められているといえるでしょう。
執筆者
川北 智奈美
(人事戦略研究所 マネージングコンサルタント)
現場のモチベーションをテーマにした組織開発コンサルティングを展開している。トップと現場の一体化を実現するためのビジョンマネジメント、現場のやる気を高める人事・賃金システム構築など、「現場の活性化」に主眼をおいた組織改革を行っている。 特に経営幹部~管理者のOJTが組織マネジメントの核心であると捉え、計画策定~目標管理体制構築と運用に力を入れている。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
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