〔事例つき〕新入社員のモチベーションを下げない、効果的な叱り方とは?
教育・能力開発
新卒社員が入社を迎える4月。その直前である今月は、受け入れ体制の整備や配属先の調整等を進めている中小企業も多いのではないでしょうか?
新入社員の定着・育成のためには上司・先輩の指導力の強化も重要ですが、若手社員の早期離職が増加している昨今は、「若手社員の叱り方」に悩む方も多いのではと思います。
そこで本コラムでは、「新入社員のモチベーションを下げない、効果的な叱り方」について、現場で良く起こるケースとその対応を交えて解説します。
1.「叱る」とは、自身の感情を排し、相手への「期待」を考え・伝えること
まず、「叱る」と「怒る」という言葉の違いを確認しておきましょう。
「怒る」とは自分の都合・思惑通りにならないことを感情的に非難することを、「叱る」とは相手の成長を願い、気付いていない・問題認識の浅いことを教え諭すことを指しており、実は似て非なるものです。
そもそも、人間はなぜ「怒り」という感情が発生するのでしょうか。
心理学では、人間は大小問わず目標達成のための行動が妨害されると、不安や辛さ、悲しさといったネガティブな感情を感じ、それが一定以上蓄積されると、「怒り」という形で発散しようとすると言われています。
つまり、「怒り」とは理想と現実のギャップによって生まれたネガティブな感情を発散するための防衛本能なのです。
これを新入社員の育成シーンで言い換えれば、上司が持つ「あるべき姿」に対して、新入社員がそのレベルに達していない、あるいはやってほしいことをやってくれない時にギャップを感じた結果、「怒り」という感情が出てくるということになります。
つまり、人間は相手に対して何かを「期待」しており、それが満たされない場合は「怒り」という感情が出るのです。そのため、新入社員に対して「怒り」を覚えたら、『何を期待していたのか』を考え、それをフィードバックする、つまり「叱る」に変換することが重要と言えます。
2.【事例別】新入社員のモチベーションを下げない、効果的な叱り方
叱り方については、具体例でお伝えした方が理解しやすいと思いますので、3つのケースをもとにGoodな叱り方とBadな叱り方を確認していきましょう。
①叱るときは褒めることから入る
<事例>
部下の鈴木さんは、どうも叱られ耐性が弱い。
今回の企画の業務も正直にいって、良い出来栄えとは言えない。
本当はそろそろ次のステップの業務も任せたいのだが…。
原因はスケジュールや計画の甘さにあるのだが、それを直接言うとまた凹みそうだなあ…。
上記に対するBadな叱り方は以下の通りです。
【Badな叱り方】
「鈴木さん、企画の業務はちゃんと計画を立てないとダメだよ。
だから、いつまで経っても次のステップに進めていないんだよ」
これがBadな叱り方である理由は、叱られ耐性が弱い人に対して、一方的に指摘しているからです。
叱られ耐性の弱い新入社員に対して、「だから…」や「同期の〇〇さんに比べて…」などの言い回しは、自己肯定感の低下を招き、モチベーションを低下させます。
叱られ耐性の弱い人を叱る際は、細心の注意を払って叱る必要があるのです。
では、Goodな叱り方例を見ていきましょう。
【Goodな叱り方】
「鈴木さん、以前と比べて企画の業務まで任せられるようになって本当に嬉しく思う。
今後、次のステップの案件を任せるために、スケジュールを立ててから業務に取り組めるようになると良いと思う。その方が、計画的に業務を進められるし、こちらとしても把握しやすいんだ」
上記の例では、まず、新入社員ができている部分に対してIメッセージ(自身が感じた主観的な意見・感情を相手に伝えること)を使いながら承認しているため、相手は次に伝える指摘を受容しやすくなっています。その上で、改善ポイントとその理由を添えることで、指摘に対する納得感を高めています。
「ここができていない!」という言い方ではなく、「さらに成長するためには…」という言い回しを使うと、新入社員は「自身の成長のためにアドバイスをしてくれている」と捉えるため、素直に指摘を受容することができます。
②学びと成長につながる叱り方
<事例>
今日はお客様先へ10時にアポイント。しかし9時55分になっても部下の田中さんは来ない。自分は9時45分にはお客様先にいるのに…。田中さんにこのことをどう伝えようか。
上記に対するBadな叱り方は以下の通りです。
【Badな叱り方】
「ビジネスパーソンたるもの、時間に余裕を持った行動をすべきなので、こういう時は集合時間の10分前には来るべきだよ」
これがBadな叱り方である理由は、自分の「べき論」で指摘をしているからです。
仮にその指摘が正しくても、新入社員からすれば「押し付けられている」と感じてしまいます。また、「叱られている」というよりも「怒られている」という印象が強くなり、結果として本当に指摘したいことが相手に届きません。
一方、このケースにおけるGoodな叱り方は以下の通りです。
【Goodな叱り方】
「お客様先に入る前には、事前の打ち合わせもある。だから10分前には来てほしい。5分前行動だと車や電車が遅れたときに対応できないので、日頃から10分前行動を心がけたほうが安全だよ」
これがGoodな叱り方である理由は、「なぜ10分前に到着しなければならないのか」の理由について、メリットとともに説明している点です。
人間は意味を求める動物です。頭ごなしに「こうしなさい!」と指摘するだけでは、行動する動機が生まれません。今回の例では、「事前の打ち合わせがある可能性があるため」「車や電車が遅れると待ち合わせ時間に間に合わず、お客様や上司・先輩に迷惑がかかる」と指摘することで、「10分前に到着する意義・メリット」が伝わり、新入社員の理解を深めることができます。
③上司・先輩が見ているものは何かを伝える
<事例>
部下の高橋さんは、教えたことを何度も聞いてくる。本当に聞いているのかどうか、わからないなあ。そういえば、メモを取っている仕草をあまり見たことがない。どう指摘したものか…。
上記に対するBadな叱り方は以下の通りです。
【Badな叱り方】
「前も同じ質問をもらったと思うんだけど…。私はたくさん業務を抱えていて忙しいので、同じことを教えなくて良いように、指示を受ける時は、ちゃんとメモをとるようにしてね」
これがBadな叱り方である理由は、本当に指摘したかったこととは違うことが伝わってしまう可能性があるからです。このような言い方をしてしまうと、何度も同じことを聞くことが悪いのではなく、「忙しいときに声をかけたのが悪かったのかな…」と新入社員に受け取られる可能性が高くなります。
以上を踏まえると、Goodな叱り方の例としては以下の通りとなります。
【Goodな叱り方】
「このことを教えるのはもう3回目なので、ここでメモを取るなりして同じことを何回も質問しないで欲しい。質問には応じるけど、何度も同じことを聞かれると、伝わっていなかったのかなと不安になるんだ」
上記の例では、まず相手にどうしてほしいのか、そして同じことを質問されるとこちらがどう思うか、について伝えています。このような伝え方ができると、相手の指摘を素直に受容できるだけでなく、「自身の行動によって、相手はどのようなことを感じるのか」を客観的に振り返ることができます。
3.新入社員を叱る前のセルフチェックポイント
新入社員を叱る前には、皆さん自身のセルフチェックを行なうことも重要です。下図にセルフチェックポイントをまとめていますので、確認してみてください。
人間が感情をコントロールするのは難しいものです。また新入社員に対して大きく期待しているからこそ、厳しいことを言ってしまうものです。
しかし叱り方は、言い方1つで相手の意欲が大きく変わります。新入社員の定着・育成のためには、新入社員の意欲を高めることが大事なのは言うまでもありません。
新入社員の意欲を高める叱り方をすることは、上司・先輩の基本動作です。新入社員に期待していることや指摘したいことが正しく伝わるよう、今回のケースを参考に叱り方を工夫してみてください。
執筆者
大園 羅文
(人材開発・経営支援部 コンサルタント)
「採用・定着コンサルタント」として、中堅・中小企業を対象とした人材採用支援(新卒・中途)、若手人材の定着・即戦力化支援、人事制度の構築・運用支援に従事。
特に、『若手人材の採用・定着力の強化』を得意テーマとしており、中小企業独自の問題に対する支援を通じて、“欲しい人材を採用・定着させる企業づくり”をテーマに掲げている。
「成功事例で分かる 小さな会社の採用・育成・定着の教科書」(日本実業出版社) 著者
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。