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採用競争力の向上に向けた「賃上げ」について(5)

2018年05月10日 カテゴリ:賃金制度

執筆者:岩下 広文

人事戦略研究所 上席コンサルタント

大学卒業後、国内事業会社において人事・総務等の実務に従事。その後、人事アウトソーシング会社、及び、外資系大手コンサルティングファーム(※監査法人系)にて人事コンサルティング業務に従事した後、現職。人事評価・賃金制度構築や退職金制度設計だけでなく、組織・人事面における幅広いテーマでのコンサルティング経験を有する。人事の実務経験を活かした運用性の高い制度設計に定評がある。

前回のブログでは、想定される5つの賃上げ施策のうち、本稿の主題に最も合致すると考えられる「⑤業績連動給与による賃金水準の引上げ」について、具体的な解説をした。本ブログでは、当該施策を導入・運用する際の2つの注意点について解説を行うこととする。

一つ目の注意点は、「不利益変更とみなされる可能性がある」という点である。どのような場合に不利益変更とみなされる可能性が高いのか、その詳細な解説は本稿では割愛させていただくが、ざっくり言えば、新しい賃金水準や賃金体系が従前よりも「社員にマイナスの影響を与える場合」ということになる。従って、不利益変更の可能性の有無/程度を判断するには、新制度が旧制度に比してどのような賃金水準や賃金ルールとなっているか、という観点での比較衡量がまずは必要となる。

前回取り上げた「業績連動給与による賃金水準の引き上げ」施策の場合であるが、それまでの給与体系・水準を維持したままで、新たに「業績連動給与」を給与項目の一部として追加するのであれば、不利益変更とみなされる可能性は低いと推察される。一方、それまでの給与体系・水準から根本的な制度改定を行う一環としてこの「業績連動給与」を取り入れる場合は、変更内容によっては「不利益変更」とみなされる可能性がある。

従って、後者の場合には、まずは実施予定の制度改定について「不利益変更」の度合いが強くないかどうかを見極めた上で、もし不利益性が強い場合には相応の対応を取るように注意しなければならない。

二つ目の注意点は、「人材採用に際して応募者に"十分な制度説明"が必要」という点である。本稿で紹介したタイプの「業績連動給与(=以下「会社業績給」)」を導入した後、新たに社員を採用する場合、社員採用時点での会社業績給はその時点での会社業績によって決定されることになる。従って、その後の会社業績が上昇し続ければ、会社業績給が下がることは原則として無いが、逆に会社業績が下降すれば、それに連動して会社業績給も下がることになる。

このため、採用活動の局面では、給与項目の一部に「会社業績給」という業績連動型の給与が含まれており、場合によっては下がる可能性もある・・・ということを応募者に詳しく説明し、理解と同意を得ておくことが必須である。そのような説明等を経ていないと、会社業績給が下がったタイミングで社員から「そのような話は聞いていなかった、知らなかった」との声が上がりかねない。そうなると、社員のモチベーションを低下させるだけでなく、最悪なケースとして会社が訴えられる可能性もある。従って、内定通知を出す前の条件通知・面談の段階で十分な説明を行い、可能であれば採用予定者から当該制度内容についての承諾書を得ておくことが望ましい(※但し、承諾書まで取るとなると、採用予定者の不安感を必要以上に煽ってしまう恐れもあるので、この辺りは判断が難しい所ではある)。

以上、前回ご紹介した「業績連動給与による賃金水準の引上げ」施策について、実際に導入・運用する際の注意点について触れさせていただいた。今回の記載内容をお読みいただいた結果、「何となく大変そう、リスクも高そう」と感じられた読者の方もいるかもしれないが、確かに、会社業績によって柔軟に支給水準をコントロールできる賞与と比べると、その通りである。従って、もし手間やリスクを嫌うのであれば、賞与によって年収単位での水準調整を行うことになる。しかしながら、本稿のテーマである「採用競争力の向上に資する賃上げ」という観点では、やはり賞与よりも給与での賃上げの方が効果は高いため、今回ご紹介した仕組みについても「一つの方法」として検討いただければと思う。

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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