その組織課題は本当に人事制度の問題か?
~人事制度で解決できる問題、できない問題~

賃上げや採用競争の激化、働き方・キャリア観の変化など、人事を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした変化を受け、等級・評価・賃金制度を中心に、人事制度の見直しを検討する企業も増えています。

しかし、実際にお話を伺ってみると、制度改定そのものが目的なのではなく、「若手社員が育たない」「管理職がマネジメントをしない」「社員の離職が多い」といった組織課題を解決したいというケースも少なくありません。

こうした課題に対して、人事制度の見直しが有効な場合はもちろんあります。一方で、若手が育たない原因が仕事の任せ方にあったり、管理職がマネジメントをしない原因がプレイヤー業務による多忙さにあったりする場合には、人事制度だけを変えても本質的な問題は解決しません。

本ブログでは、「いま起きている問題は、本当に人事制度で解決すべき問題なのか」という視点から、人事制度で解決しやすい問題と、制度だけでは解決しにくい問題を整理し、人事制度を組織課題の解決につなげるための考え方を解説します。

 

本ブログのポイント

✓ 人事制度は、会社が社員に求める「貢献」を明確にし、その貢献度合いを「評価」し、結果を「処遇」につなげる仕組みである

✓ 「基準やルールの曖昧さ」に起因する問題は人事制度で解決しやすい一方、業務量・人員配置・権限・マネジメントなどに原因がある問題は、制度改定だけでは解決しにくい

✓ 実際の組織課題には制度と制度外の要因が絡み合っているため、解決したい課題を明確にし、人事制度とその他の取り組みを組み合わせて考えることが重要である

 

1.人事制度で解決しやすい問題

「人事制度で解決しやすい問題」を考える上で、まず人事制度の位置づけを整理します。

人事制度の役割をシンプルに整理すると、大きく次の3つに分けることができます

 

①会社が社員に求める貢献(期待すること)を明確にする(等級制度)

②貢献度合いがどの程度であったかを測る(評価制度)

③貢献度合いに応じてどのように報いるかを決める(賃金制度)

 

例えば、ある会社で、「主任になったものの、一般社員との役割の違いがよく分からない」という声が出ていたとします。

主任には、自分の担当業務だけでなく、後輩への指導やチーム内の業務改善まで担ってほしい。しかし、その期待が会社から明確に示されていなければ、本人はこれまでと同じように仕事をすることになります。

この場合は、等級基準や役職基準を整理し、会社が主任に何を期待しているのかを明確にすることで、改善できる可能性があります。

また、「同じような仕事をしているのに、上司によって評価が違う」「何をすれば高い評価になるのか分からない」という問題であれば、評価項目や評価基準が曖昧であることが原因かもしれません。

何を評価するのか、どの程度できれば高く評価するのかを整理することで、評価者による判断のばらつきを抑え、社員にも会社が重視することを伝えやすくなります。

さらに、「高い評価を受けても、給与や賞与にどう反映されているのか分からない」「なぜあの人が先に昇格したのか分からない」という問題であれば、評価と処遇のつながりを整理する必要があります。

 

◆人事制度で解決しやすい問題の一例

人事制度の役割 解決しやすい問題例
期待することを明確にする ・何を求められているか分からない

・一般社員と役職者の違いが曖昧

・キャリアパスが不明確 など

貢献度合いを測る ・上司によって評価が違う

・何をすれば評価されるか分からない など

処遇を決める ・評価と給与・賞与の関係が分からない

・昇格や給与決定の理由が分からない など

 

上記の問題に共通しているのは、基準やルールが曖昧になっている点です。

 

人事制度を整備することで、

・自分には何が期待されているのか

・会社は何を評価しているのか

・評価された結果がどのように自分の処遇につながるのか

を明確にすることができます。そのため、こうした「基準やルールの曖昧さ」に起因する問題は、人事制度の見直しによって比較的解決しやすい領域だといえます。

 

2.人事制度だけでは解決しにくい問題

一方で、組織の問題がすべて、前章で整理した「基準やルールの曖昧さ」に原因があるわけではありません。

例えば、「管理職が部下を育成しない」という問題があったとします。

会社として管理職に「部下を育成すること」を期待し、評価項目にも「部下育成」を盛り込んでいる。それでも、管理職自身がプレイヤー業務に追われ、部下と話す時間すら取れていないのであれば、評価制度を見直すだけで問題を解決することは難しいでしょう。この場合は、管理職の業務量が多すぎないか、プレイヤーとしての役割を持たせすぎていないか、部下に仕事を任せられる体制になっているか、といった人事制度以外の部分にも目を向ける必要があります。

また、「若手社員が育たない」という問題についても同様です。

若手社員に求める役割や行動が明確になっていないのであれば、人事制度の見直しが有効です。一方で、若手に仕事を任せていない、上司が忙しく指導する時間がない、失敗を避けるため簡単な仕事しか与えていない、といった状態であれば、制度だけを見直しても成長にはつながりません。

さらに、「社員が自律的に動かない」という問題も、人事制度だけでは解決しにくい場合があります。

評価制度で「主体性」や「チャレンジ」を求めていても、実際には小さな判断まで上司の承認が必要であったり、失敗すると強く叱責されたりする職場であれば、社員が主体的に動きにくいのは当然です。この場合は、評価制度だけでなく、権限の与え方や意思決定の仕方など、日々の組織運営を見直す必要があります。

 

◆人事制度だけでは解決しにくい問題の一例

組織課題 制度の観点 制度外の観点
管理職が部下を育成しない 部下育成を役割・評価として明確にしているか など 業務量、プレイヤー業務、

人員配置、権限 など

若手社員が育たない 期待する役割・行動が明確か など 仕事の任せ方、育成時間、

指導体制 など

社員が自律的に動かない 主体性や挑戦を求め、評価しているか など 権限委譲、意思決定の仕方、

失敗への対応 など

 

このように、人事制度だけでは解決しにくい問題に共通しているのは、「基準やルールの曖昧さ」ではなく、実行するための環境や組織運営に原因がある点です。

人事制度は、社員に求めることを明確にし、その行動を後押しすることはできます。しかし、社員が期待される行動を実際に取るための環境まで、人事制度だけで整えられるわけではありません。

そのため、組織課題を考える際には、「人事制度に問題があるのか」だけでなく、業務量、人員配置、権限、仕事の任せ方、マネジメントのあり方など、制度以外の要因にも幅広く目を向ける必要があります。

 

3.実際の組織課題は制度と制度外の問題が絡み合っている

ここまで、人事制度で解決しやすい問題と、人事制度だけでは解決しにくい問題を分けて整理してきました。ただし、実際の組織課題は、この2つにきれいに分けられるとは限りません。むしろ、人事制度上の問題と、それ以外の組織運営上の問題が複合的に絡み合っているケースの方が多いと考えます。

 

例えば、「社員の離職が多い」という問題を考えてみます。

人事制度の観点では、

・給与水準や昇給の仕組みが社員の期待と合っていない

・評価や処遇の決定方法に納得感がない

・社内でどのように成長・昇格していけるのかが見えない

といった問題があるかもしれません。
 
一方、人事制度以外にも、

・上司や同僚との人間関係に問題がある

・長時間労働や特定社員への業務集中など、業務量に問題がある

・勤務時間や休暇の取りやすさなど、働き方に問題がある

といった問題が考えられます。

実際には、「給与への不満だけ」「上司との関係だけ」と原因が一つに限定されるとは限りません。給与やキャリアへの不満に、職場の人間関係や業務負荷、働き方への不満などが重なり、離職につながっていることもあります。

この場合、賃金制度を見直すだけでは十分ではありません。反対に、職場環境を改善するだけでも、社員が将来の処遇やキャリアに不安を感じたままであれば、課題が残る可能性があります。

つまり、一つの組織課題に対しても、人事制度で解決すべき部分と、人事制度以外で解決すべき部分を切り分けて考える必要があります。

 

「管理職が部下を育成しない」「若手社員が育たない」「社員が自律的に動かない」といった課題についても同様です。

大切なのは、目の前の課題をすぐに「人事制度の問題」と捉えることではありません。

まずは、なぜその問題が起きているのかを掘り下げ、その原因のうち、どこまでを人事制度によって解決できるのかを見極めることです。そのうえで、人事制度の見直しと、組織体制や業務、マネジメントなどの見直しをどのように組み合わせていくのかを考える必要があります。

 

◆組織課題を「制度で解決する部分」と「制度外で解決する部分」に分解する(一例)

組織課題 制度の観点 制度外の観点
離職が多い 給与・昇給、評価・処遇、キャリア・昇格の見通し など 職場の人間関係、業務量、働き方 など

 

4.制度改定の前に確認すべきポイント

ここまで見てきたように、人事制度の改定を検討する際には、いきなり制度の詳細を検討するのではなく、まず「何を解決するための制度改定なのか」を整理することが重要です。制度改定に着手する前に、次の3つのポイントを確認しましょう。

 

ポイント1 人事制度の改定によって、どのような組織課題を解決したいのか

最初に明確にしたいのは、人事制度改定の目的、つまり「何のために人事制度を見直すのか」です。
 
例えば、
「評価制度を見直したい」
「管理職の評価項目を増やしたい」
「賃金制度を改定したい」
というのは、あくまで手段です。
 
その背景には、

・管理職が部下育成に取り組めていない

・若手社員が将来のキャリアを描けていない

・頑張っている社員が報われている実感を持てていない

・社員が会社から何を期待されているのか分かっていない

といった、解決したい組織課題があるはずです。
 
まずは「どのような制度にするか」ではなく、「組織をどのような状態に変えたいのか」まで含めて、解決すべき課題を明確にすることが出発点になります。

 

ポイント2 人事制度を通じて何を変えたいのか

組織課題が明確になったら、次に考えたいのは、人事制度を変えることで、社員や管理職の認識や行動をどのように変えたいのかという点です。
 
例えば、「管理職が部下を育成しない」という課題であれば、

・管理職に部下育成まで求めることを明確にする 

・部下育成を管理職の評価項目に加える

・管理職への昇格時に、マネジメント力も判断する

といった制度改定が考えられます。
 
これによって目指すのは、単に評価項目を増やすことではありません。管理職自身に「部下育成も自分の役割である」と認識してもらい、実際の行動につなげることです。
 
一方、「若手社員が将来のキャリアを描けない」という課題であれば、

・等級ごとに求める役割や能力を明確にする

・昇格の基準を示す

・評価結果のフィードバックを通じて、今後期待する成長を伝える

といった対応が考えられます。
 
重要なのは、「評価制度を変える」「等級制度をつくる」といった制度そのものを目的にするのではなく、制度を通じて、社員の認識や行動をどのように変えたいのかまで具体化することです。

 

ポイント3 制度外の取り組みも含めて、どのようなステップで進めるのか

人事制度で変えることが明確になったら、制度外の取り組みも含めて、組織課題の解決までの進め方を考えます。

例えば、管理職の部下育成を促したい場合、人事制度を見直すだけでなく、プレイヤー業務の削減や権限委譲、マネジメント研修なども必要になるかもしれません。

その際には、すべてを一度に進めればよいとは限りません。

例えば、
 
・制度外の取り組みを先に進める
 管理職の業務内容・権限・組織体制などを整理してから、人事制度に反映する
・人事制度の整備を先に進める
 人事制度で期待役割を明確にしたうえで、業務や権限の見直しを進める
・両者を並行して進める
 人事制度の改定と、管理職育成や業務改善を並行して進める
 
といった進め方が考えられます。

どの順番が適切かは、課題の内容や会社の状況によって異なります。

大切なのは、制度改定だけのスケジュールを考えるのではなく、組織課題の解決までに必要な取り組みを全体として捉え、その中に人事制度の改定を位置づけることです。

 

まとめ

人事制度は、会社が社員に何を期待し、どのように評価し、その結果をどう処遇につなげるのかを明確にする仕組みです。

一方で、実際の組織課題には、人事制度だけでは解決できない要因も多く含まれています。

だからこそ、人事制度をつくること自体を目的にするのではなく、解決したい組織課題を明確にし、その中で人事制度が担う役割を考えることが重要です。

制度改定を検討する際には、「人事制度を、組織課題を解決するための一つの手段として捉える」という視点を持つことが大切ではないでしょうか。