AI時代における人事評価のあり方 評価基準の個別化がマネジメントを変える

人事評価といえば、あらかじめ定めた評価項目に基づく定性評価や、期初に本人が設定した目標の達成度に基づく目標管理による評価、あるいはその組み合わせで行っている会社が多いでしょう。しかし定性評価では、「主体性」「チャレンジ精神」「コミュニケーション」といった抽象的な評価項目を、実際の部下の業務や行動事実に照らして解釈し判断しなければなりません。その解釈が不適切であれば、上司の匙加減で評価が決まるというように、部下の不信感につながる可能性があります。一方、目標管理による評価では、目標を適切な表現や難易度に設定することに加え、組織方針との整合性を確認し修正する等の労力がかかります。
 
そこで、近年急速に普及している生成AIを活用すれば、こうした問題を克服し、よりよい人事評価を行えるのではないか、と考えるのは自然なことでしょう。例えば、
 

・会社として大切にしている考え方(経営理念や行動指針)

・当該期の会社や部門の方針

・本人の業務内容や役割、能力や適性、現在の成長課題

 
といった情報を生成AIに入力し、その評価期間における達成基準やマイルストーンのたたき台を作成させることが考えられます。それによってこれまでは上司が相当な時間をかけていた、個別に評価基準を具体化するという作業が、はるかに効率的に行えるようになります。さらに評価基準が本人の業務等に即した具体的なものになることで、部下の評価に対する納得度を高めることにもつながります。

 

評価基準の個別化がマネジメントの質を高める

くわえて重要なのが、そのようにして得られた評価基準やマイルストーンを上司と部下がお互いに参照することによって、マネジメントも個別化するという点です。例えば同じ営業であっても、社員によっては既存顧客に対する売上の拡大を期待し、別の社員は新たな顧客の開拓を期待するかもしれません。また同じ「既存顧客への拡販」という期待内容であったとしても、本人の成長課題によって取り組むべきテーマは異なります。ある人にとっては関係性の構築が、別の人にとっては顧客のニーズを聞き取る力や提案の組み立て方が課題かもしれません。また当然これらの内容は、会社の方針や社員の成長等によって、期によって変わってきます。
 
このように人によって異なり、期によっても異なる期待成果や成長テーマ等を、評価基準という形で言語化することによって、期初に本人に対して説明し、それに沿った行動を促しやすくなるでしょう。それだけでなく、あらかじめ具体的なマイルストーンが上司と部下の間で共有できていれば、それに沿って「どこまでできたか」「何ができていないのか」「次に何をすべきなのか」といった話し合いもやりやすくなるでしょう。
 
つまり、評価基準とマイルストーンが明確になることで、評価の場面ではなく、日常のマネジメントにおける上司と部下のやり取りも変わっていく可能性があります。AIの活用で評価基準とマイルストーンが個別化することにより、マネジメントも個別化され、より一層の高度化が可能となるのです。

 

AIによって、上司や評価の役割も変わる

もちろん、生成AIを評価基準の設定に活用したり、マネジメントに活用するには、2つの点に留意する必要があります。まず適切な評価基準の生成に向けてAIに入力するための情報を、可能な限り言語化しておくということです。AIは、入力された情報をもとにアウトプットを生成します。したがって、各部門が何を実現しようとしているのか、本人にどのような役割や成長を期待しているのかといった情報が曖昧なままでは、適切な評価基準を生成することは難しくなります。
 
次に生成AIのアウトプットを、人が評価し判断することです。生成AIはアウトプットの適切さについて、責任を負いはしません。そうではなく、かわりに上司がAIのアウトプットを評価し、必要であれば修正しなければなりません。これまでの人事評価において上司は、部下が作成した目標を確認して修正したり、抽象的な定性評価の内容を具体的な事実に照らして説明したり、評価結果について本人に説明したりすることに、多くの時間と労力をかけてきたかもしれません。これからの人事評価では、上司はそのような作業をAIで代替するかわりに、
 

・この評価基準は部門の目標達成に資するものなのか?

・この評価基準は部下が次の段階に成長するに資するものなのか?

・そもそもこの評価基準は、上司と部下でお互い納得をもって評価できるものなのか?

 
といった、より高度な判断の責任を負うことになるのです。

また今後、AIの人事領域への進出はさらに進んでいくでしょう。今回述べた評価基準の作成は一例にすぎず、目標設定、1on1、育成計画、フィードバックなど、さまざまな場面でAIが活用されるようになると考えられます。そのような中で重要になるのは、AIを使うことの是非ではありません。AIによって評価基準の作成や見直しにかかる負担を軽減できるからこそ、評価制度そのものを査定のためだけのものではなく、個々の社員の成長と成果創出に向けたマネジメントにつながる仕組みとして捉え直すことが、これまで以上に重要になるといえます。

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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