「育休応援手当」、最新の動向と導入後の落とし穴
人事制度
本記事の目次
● 「育休応援手当」の主な類型と先行企業の事例
● 落とし穴①「複雑なルールが不公平感を生む」
● 落とし穴②「一時金だけでは同僚の長期の頑張りが報われない」
● 落とし穴③「育休が複数重なったとき、手当だけでは追いつかない」
● まとめ
「育休応援手当」の主な類型と先行企業の事例
以前のブログ「育休取得者を『支える同僚』にどう報いるか?」(2025年3月掲載)で、育休取得者を支える同僚への報い方として、①一時金等の金銭の支給、②人事評価への加点という2つの方法をご紹介しました。それから1年ほどが経ち、男性の育休取得率は40.5%(令和6年度雇用均等基本調査)となりました。前年から10.4ポイントの上昇で、初めて4割を超えています。「育休応援手当」を入れる企業も、業種や規模を問わず増えてきた印象です。
前回ご紹介した三井住友海上火災保険の事例(職場の人数規模等に応じて同僚個人に3,000円~最大10万円を支給)に続き、九州電力・九州電力送配電は2024年9月から「育児サポート応援金」を導入しています。これは1ヶ月以上の育児休職取得者が所属する職場に対し、人数に応じて半期ごとに支給する仕組みです(注1)。さらに三菱UFJフィナンシャル・グループは2026年4月から「育休取得者の周囲への御礼金制度」として、連続1ヶ月以上の育休取得者の業務を支援した同僚に対し、育休取得者1名につき上限10万円を支給する制度を導入しました(注2)。
このほか、大和リース(注3)、KADOKAWA(注4)、中小企業基盤整備機構(注5)などでも、それぞれ独自の仕組みが導入されています。
「育休応援手当」の主な類型と先行企業の事例
| 観 点 | 内 容 |
| 支給先 | A|個人支給(例:三井住友海上、三菱UFJ FG、中小機構) B|職場全体支給(例:九州電力、大和リース) |
| 金額設定の考え方
|
A|職場規模・育休取得者の休業期間などをもとに支給額決定(例:三井住友海上、九州電力、三菱UFJ FG、KADOKAWA)
B|育休取得者の賞与金額を対象者に分配(例:大和リース) |
| 支給方法 | A|一時金で一括(例:三井住友海上、三菱UFJ FG、中小機構) B|半期・賞与などで継続支給(例:九州電力、大和リース) |
| 対象範囲 | A|育児休業のみ(例:三井住友海上、九州電力、三菱UFJ FG) B|育児+介護休業(例:KADOKAWA) |
| 対象期間の閾値 | A|短期から対象(例:三井住友海上) B|1ヶ月以上が対象(例:九州電力、三菱UFJ FG、大和リース) |
※筆者作成
このように、同じ「育休応援手当」と呼ばれる制度でも、各社の組み立て方は大きく異なります。なお、中小企業については、こうした制度導入を後押しする仕組みとして、両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」が用意されており、業務代替者への手当支給額の3/4が助成される制度があります(注6)。
こうした動きを受けて、各企業の関心事は、「育休応援手当」を導入するかどうかという段階から、どう運用していくかという段階へ徐々に移っているのではないでしょうか。本ブログでは、すでに制度を導入した企業の現場で考えられる落とし穴と、その対応策をご紹介します。
落とし穴①「複雑なルールが不公平感を生む」
職場規模や取得期間によって手当金額に差をつける設計は、業務代替を担う同僚の負担に見合う形で支給したい、という思いから生まれたものです。しかしいざ運用が始まると、現場からは「隣の課はもらえたのに、うちはもらえなかった」「3ヶ月で復帰した人は10万円、たった数日違うだけで3万円というのはなぜか」といった不満の声が上がります。前回のブログでも触れた「現場にとってわかりやすいかどうか」という点が、ここでも重要になります。
おすすめは、支給ルールをできるだけシンプルにすることです。金額を変える要素は「職場の人数」と「取得期間」の2つ位に絞るのがよいでしょう。そのうえで、「なぜ3ヶ月を基準にするのか」「なぜ金額が3倍違うのか」といった理由を、社内説明資料にできる限り書いておきましょう。質問が来たときに、上司や人事担当者が同じ言葉で説明できれば、不公平感が広がる前に防ぐことができます。
落とし穴②「一時金だけでは同僚の長期の頑張りが報われない」
「育休応援手当」を一時金で支給する場合、育休の開始時に支払うと、これから始まる業務代替期間に対する激励や期待の意味合いが強くなります。
ところが、同僚の負担は育休が始まってから数ヶ月、長ければ1年間も続きます。たとえば、育休取得者が担当していた顧客への対応、増えた業務量のなかでも進める必要のある後輩への指導、想定外のトラブルへの対応など長い期間にわたって「やり切った」働きを、一時金1回だけで評価するのは難しいです。「もらったときは嬉しかったけれど、徐々にモチベーションが下がってしまった」という声も出てくるかもしれません。
ここで有効なのが、前回ご紹介した「人事評価への加点」と組み合わせる考え方です。手当を支給して終わりにするのではなく、評価加点を通じて、期末にその期間の貢献をふり返って報いる仕組みを取り入れる方法です。期末面談で「あなたのこういう動きが加点につながりました」と上司が具体的にフィードバックすることによって、本人の納得感は大きく変わります。
落とし穴③「育休が複数重なったとき、手当だけでは追いつかない」
男性の育休取得率が4割を超えた今、同じ職場で年に複数回、ときには同時期に2~3人の育休取得者が出るケースも珍しくなくなりました。取得者が1人であれば手当で対応できても、複数人が同時に抜けると、現場の業務負担は手当だけでは追いつかないところまで膨らみます。「育休応援手当を払っているのだから現場でなんとかしてほしい」という姿勢でいると、残された同僚に過剰な負担がのしかかり、職場全体の疲弊につながります。
ここで人事や経営に問われるのは、手当の金額をどうするかという話ではありません。具体的には、まず応援要員を一時的に補充すること(他部署からの応援、派遣社員の活用など)が考えられます。それでも追いつかない場合には、職場の業務量や組織目標そのものを一時的に縮小・軽減することも必要になるでしょう。応援手当は同僚の負担に報いる有効な手段ですが、負担そのものを減らす効力はありません。特に複数人の育休が重なる場面では、手当だけで対応しようとせず、業務体制づくりとセットで考えていくことが重要です。
そして、応援要員による業務代替をスムーズに進めるためには、日頃から業務が属人化しないような体制づくりが欠かせません。業務マニュアルの整備、引継ぎフォーマットの標準化、担当業務の複数名体制確保など、誰かが急に休んでも回る職場をつくっておくことが、結果的に育休取得者本人や代わりに業務を担う同僚、そして上司や経営者にとっても望ましい状態につながるのではないでしょうか。
まとめ
本ブログでは、「育休応援手当」を運用するうえで陥りやすい3つの落とし穴を取り上げました。これらを避けるには、「どう設計し、どう運用するか」という視点が欠かせません。
①まず、ルールが複雑になりすぎないように、金額を変える要素をしぼり、なぜその基準なのかを説明できるようにしておくことが大切です。②次に、一時金を支給して終わりにするのではなく、人事評価への加点を通じて、長く続いた同僚の頑張りを期末にふり返って報いることが求められます。③そして、手当だけに頼りきるのではなく、複数人の育休が重なる場面では、要員のやりくりや業務の属人化解消といった業務体制の見直しまで視野に入れることが重要です。
このように、「育休応援手当」は同僚への感謝を形にする有効な手段ですが、それだけで職場の課題がすべて解決するわけではありません。制度導入後に何が起きるかを先回りして設計しておくことが、育休取得者と支える同僚、そして職場全体が納得できる職場づくりにつながります。
(注1)九州電力/九州電力送配電「2024年8月30日付プレスリリース 育児休職者が所属する職場の従業員に『育児サポート応援金』を支給します」
https://www.kyuden.co.jp/press/2024/h240828-1.html
(注2)三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月25日付プレスリリース グループ人的資本戦略の強化に向けた各種取り組みについて」
https://www.mufg.jp/dam/pressrelease/2026/pdf/news-20260325-001_ja.pdf
(注3)大和リース「2023年12月12日付プレスリリース 育児休業を支える同僚への賞与『サンキューペイ制度』を新設」
https://www.daiwalease.co.jp/press/231212_sankyu.pdf
(注4)KADOKAWA「2025年4月1日付ニュースリリース 『産育休・介護休フォロー手当』を導入」
https://group.kadokawa.co.jp/information/news_release/2025040101.html
(注5)中小企業基盤整備機構「2025年4月 育児休業の取得を後押しする『育児休業応援手当』を導入」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001707.000021609.html
(注6)厚生労働省「両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。
