定年後の給与、何割下げたら「違法」なのか?

「定年後に再雇用した社員の給与、どのくらい下げていいのか?」――実務で必ず直面するテーマです。

今回は、主要な裁判例を踏まえて、分かりやすく整理してみましょう。

 

① 定年後の相場感は「定年前の6~7割」

まずさっくり言うと、定年再雇用後の給与は、定年前の6~7割程度に設定している会社が多いです。

つまり、3~4割のダウン。中小企業よりも大企業の方が減額幅は大きく、なかには定年前の3~4割水準まで下げるケースもあります。

 

②「何割までならOK」という明確基準はない

法律上、「○割まで減らしていい」という明確な線引きはありません。

ただし、2~3割の減額はこれまでの裁判例では「直ちに違法とはいえない」判断が多く見られます。

例えば、有名な長澤運輸事件では、定年再雇用制度の社会通例や年金による生活補填が見込まれることなどを理由に、全く同じ仕事内容(同一労働)であっても、2割程度の減額が「不合理ではない」と最高裁が判断しました。

 

③ どこまで下げたら違法か?

一方で、極端な減額は違法とみなされやすくなります。

たとえば九州惣菜事件では、再雇用後の給与が約75%減。裁判所はこれを「著しく不合理」と判断し、会社側が敗訴しました。

また、名古屋自動車学校事件では、基本給で6割を下回る減額は違法とした高裁判決があります。

ただし、この事件は最高裁で差し戻しとなり、最終判断はまだ定まっていません。

 

④ 減額を正当化できる理由とは?

減額には必ず合理的な理由が求められます。代表的なのは以下のようなケースです。

・業務内容・責任の軽減

・他社との比較(社会的慣行)

・賃金項目の目的や性質

 

先ほどの長澤運輸事件では、手当の扱いによって判断が分かれました。

精勤手当の不合理な差は違法とされましたが、給与水準や賞与、住宅手当、家族手当などは、年金補填や手当の性質などを根拠に「不合理ではない」とされています。

 

⑤ 裁判所が重視するのは「減額幅」と「合理性」

裁判所は単に金額の多寡ではなく、「減額の幅」×「合理的理由」を総合的に判断します。

根拠があいまいな大幅減額は違法とされやすく、逆に業務内容の変更や本人の納得がとれている場合は、一定の幅であれば認められる傾向にあります。

 

主な判例の比較

事件名 減額幅 違法判断 主なポイント
長澤運輸事件 約2割 合法 同一労働ではあるが、合理的理由ありと判断
名古屋自動車学校事件 約5割以上 6割超の減額は違法(高裁判断) 最高裁で差戻し中(2025年12月時点)
九州惣菜事件 約75%減 違法 同一労働でないとしても、減額が極端

 

⑥ 実務での注意点

最後に強調しておきたいのは、「○割までなら減額OK」という機械的な基準ではなく、合理的な説明ができるかどうかです。

給与体系、手当の性質、業務内容、本人同意、これらを総合的に整理し、説明可能な状態にしておくことが重要です。

 

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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