専門職制度の導入に失敗しないために

最近、「専門職制度の運用」に関する相談を頂く機会が多いです。例えば、専門職設置の目的を「高度な専門知識・スキルを有する人材を評価・処遇するため」としているにも関わらず、「専門職が管理職に向いていないベテラン社員の受け皿として使われている」「管理職のポストが埋まっているため、ポスト待ち社員を待機させるために使われている」等、目的とは異なる運用になってしまっている、といった内容です。

 

専門職制度設置の目的を「高度な専門知識・スキルを有する人材を評価・処遇するため」とする場合、それに沿った運用をしていくためには、専門職の定義を定め、適切に見極めていくことが大切です。本編では、「(1)専門職としての専門性や適性をどのように定義し、(2)だれが専門職への昇格を見極めていくのか」についてご紹介します。

 
 
(1)専門職としての専門性や適性をどのように定義するか

 

専門性を具体的な職務で定義することは難しい

はじめに「専門性を具体的な職務で定義する難しさ」を確認します。

そもそも、専門性を定義する上で最もわかりよいのは、専門職の職務を明確化し言語化することです。ただし、例えば開発職や技術職等を筆頭に、多くの職種においては様々な知識やスキルが複雑に絡み合っており、それによって取り組む職務や期待する成果も様々であるというケースが大半です。そうすると、職務を一つ一つ言語化することは非常に困難ですし、作成やメンテナンスにもかなりの時間を要します。したがって、職務基準(ジョブ型)の人事制度を導入しているケースを除いて、職務を明確化し言語化することは現実的には難しいといえます。 

 

では、専門職としての専門性や適性はどのように定義すれば良いのでしょうか。

今回は、以下2つの観点をご紹介します。

 

観点1:専門性の程度を定義する

まず1つ目の観点は「専門性の程度」です。専門性の程度といってもいくつか切り口が考えられますので、定義する際に押さえておくべき3つのポイントをご紹介します。

 

ポイント①(会社戦略と合致しているか)

まず、専門性が高いといえる場合であっても、会社が目指す方向性と合致していなければ意味がありません。極端な例ではありますが、「今後、新製品開発を強化する」と計画している製造業の会社で税務の専門スキルが優れていても意味がないということです。

会社の目指す方向性と本人の専門性が合致しているか、という観点で定義を検討しましょう。

 

ポイント②(インプットは充実しているか)

高い専門性を発揮するためには、前提となるインプット(知識)が欠かせません。

業界知識、商材知識、顧客知識はもちろんのこと、機密性の高い情報を仕入れることのできる情報リソースの確保、常時のアップデートはできているかという観点で定義を検討しましょう。

 

ポイント③(実績は充実しているか)

上記のインプットだけでなく、その専門性を発揮した結果、社内外からどう評価できるかについて押さえておくことも肝要です。例えば、直近数年間の「実績」が会社にとって有益なものであったという前提で、対外的に見ても優れた実績であったといえるか(専門性の価値は高いといえるか)、社内に代わりとなる人材を探すことが困難であるといえるか(代替不可能性は高いといえるか)、という観点で定義を検討しましょう。

 

観点2:専門職としての適性を定義する

たとえ専門性が高い場合でも、専門職としての適性があるかどうかを押さえておくことも必要です。その際、会社として専門職にどうあってほしいかを言語化することが重要です。例えば、技能伝承、建設的な提言等の専門職としての役割認識とそれに基づく行動ができるか、あるいはチームワークやリーダーシップ、顧客志向等の仕事への取り組み姿勢に問題はないかといった観点でも定義を検討することをお勧めします。

 

以上、専門職として専門性や適性があるかどうかを定義する2つの観点をご紹介しました。

 
 
(2)だれが専門職への昇格を見極めていくのか

 

専門職としての専門性や適性を適切に見極めていくためには、だれがどのような観点を判定していくのかを整理しておくことが大切です。

 

「専門性の程度」は、対象となる専門分野のことがある程度分かることが必要ですので、同じ部署(もしくは同じ専門分野)の上位者が判断した方が良いと言えます。

また、「専門職としての適性」は、今後求めている役割や行動を発揮してくれるかという将来的な要素も含まれるため、同じ部署の上位者だけでなく、過去の評価履歴や関係社員への確認が可能な人事部門が全社横断的な視点をもって判断することも必要といえます。

いずれにせよ、専門性の内容によって見極めの判定が難しい側面が大きいと思いますので、多角的な目線を入れていくこと、そして最終的には、経営陣(人事委員会等の会議体の実施が手続き的公正の観点から望ましい)が総合的に判断するというプロセスを踏むことが重要です。

 

専門職制度を導入、もしくは導入検討されている企業様にとって少しでも参考になれば幸いです。

 

執筆者

長尾 拓実 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

前職では、中小企業を中心とした採用支援事業に約3年間従事。
企業・求職者双方と接する中で、働き甲斐ある職場の実現において社員一人一人が活きる組織づくりが重要だと実感。
この経験を通じて「組織づくりを基軸に中小企業の成長に貢献したい」と想い新経営サービスに入社。
課題に対して粘り強く、企業の良さが活きるコンサルティングを心掛け日々活動している。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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