テレワークにおける在宅勤務手当設計のポイント

1.在宅勤務(テレワーク)に関する現状
「働く人の意識に関する調査(公益財団法人日本生産性本部)*1」によると、2021年1月には19.8%だった在宅勤務の実施率は、2024年1月には11.3%にまで減少しています。コロナ禍への一時的な対応として在宅勤務を取り入れていた企業が、オフィス勤務へ回帰する動きが活発化しているといえます。一方で、同調査によると、在宅勤務を継続している社員の在宅勤務に対する満足度は高く、継続を望む声も多く聞かれます。
 
2.在宅勤務手当に関する現状
在宅勤務者に対しては在宅勤務手当が支給されるケースがありますが、その実態はあまり知られていないのではないでしょうか。
 
在宅勤務手当の支給方法は、一般的には「定期的に支給される手当」と「一時的な費用補助」に大別されます。また、「定期的に支給される手当」は「毎月一律金額での支給」と「日数に応じた支給」に分かれます。

 

在宅勤務手当の支給方法

 
「福利厚生に関する調査(株式会社月刊総務)*2」によると、在宅勤務が制度として導入されている企業のうち32.8%が在宅勤務手当を支給しています。在宅勤務手当の内容について、57.9%の企業が「毎月一律金額での支給」、31.6%が「在宅勤務開始時における一時的な費用補助」を実施しています。
また同調査によると、「毎月の光熱費や備品等を実費精算している」企業は、在宅勤務手当を支給している企業の2.6%にとどまります。つまり、定期的に支給される在宅勤務手当には、光熱費などのコスト増の補填分、また自宅で勤務するための環境整備費用の補填分が一定程度含まれていると考えられます。
 
在宅勤務手当の支給水準の相場観としては、毎月一律金額での支給の場合は月額1,000円~5,000円程度、日数に応じた支給の場合は日額100円~150円、一時金の場合は10,000円~100,000円とされています。
 
3.在宅勤務手当の設計ポイント
コロナ禍においては社員に対して半強制的に在宅勤務を行わせていましたが、オフィス回帰の動きが活発化することにより、今後は社員が在宅勤務を自由に選択できることを前提とした制度設計が求められます。
では、社員が在宅勤務を自由に選択できることを前提として手当を設定する場合、会社としてどのようなことに留意する必要があるでしょうか。
 
3.1 在宅勤務に対するポリシーの明確化
大前提として在宅勤務に対する会社のポリシーを明確にすることが必要です。
そもそも在宅勤務が不可能な業種・職種も多く存在します。また、出社することが会社としての価値創造の源泉になっているという考え方をもつ経営者もおられるでしょう。そのような場合には、社員が自由に選択できる在宅勤務に対して手当を設定すべきではありません。
一方で、社員の柔軟な働き方を実現するために在宅勤務制度を充実させたい場合には、在宅勤務手当の設定・拡充が選択肢の一つとして考えられます。
 
3.2 在宅勤務手当の支給方法と支給水準
その上で、在宅勤務制度を充実させるために在宅勤務手当を設定・拡充する場合の手当の支給方法および支給水準についても社員が自由に在宅勤務を選択できることを前提に設計する必要があります。
 
支給方法については、月ごとの在宅勤務の日数が流動的になることから、「日数に応じた支給」が妥当であると考えられます。
 
「日数に応じた支給」の場合、前述の通り、日額100円~150円が一般的な水準とされています。ただしこの金額は、コロナ禍において社員が半強制的に在宅勤務を強いられることに対して、通信費や光熱費などのコスト増を補填する目的、また自宅で勤務するための環境整備の費用を補填する目的で設定された金額と考えられます。つまり、今後在宅勤務手当を設定する際には、日額100円~150円が必ずしも妥当な金額設定であるとはいえません。
 
社員が自由に選択できる在宅勤務に対して手当を設定する場合は、オフィスでの勤務を強いられている人との不公平感を生じさせないよう留意する必要があります。例えば、通勤交通費として通勤定期代を一律で支給しているのであれば、通勤交通費を実費精算に変更し、削減される交通費分を在宅勤務手当の原資に充てることが考えられます。また、会社にコーヒーメーカーやウォーターサーバーが設置されているなど、出社することによる何らかの福利厚生が設定されているのであれば、その分を在宅勤務手当に充てるという考え方もあります。つまり、オフィス勤務者との不公平感を生じさせないようにするためには、通信費や光熱費といったコスト増を補填する目的で支給水準を設定するのではなく、自宅で勤務することにより削減されるコストを原資として在宅勤務手当に充てるべきといえます。
 
4.まとめ
今回は、社員が在宅勤務を自由に選択できることを前提とした在宅勤務手当の在り方に関する私見を述べました。在宅勤務に関する制度を充実させることは、柔軟な働き方の実現によるモチベーション向上、生産性向上、採用競争力向上等に一定の効果があると考えられます。オフィスでの勤務と在宅勤務を共存させることに留意し、通勤手当・福利厚生の見直しを含め、在宅勤務手当の導入・見直しの検討を行ってみてはいかがでしょうか。
 

*1 出典:「第15回 働く人の意識に関する調査」(公益財団法人日本生産性本部, 2024年7月)
 https://www.jpc-net.jp/research/detail/006970.html

*2 出典:「福利厚生に関する調査」(株式会社月刊総務, 2021年4月)
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000011.000060066.html

執筆者

宇井 賢 
(人事戦略研究所 コンサルタント)

国内事業会社にて、知財(特許等)情報の調査・分析結果を基にした経営・事業戦略立案に関する業務を経験。その後、外資系大手コンサルティングファームにてDX(デジタルトランスフォーメーション)を軸にした組織・業務変革コンサルティングに従事したのち現職。また、中小企業診断士として中小企業に対する幅広いテーマでのコンサルティング実績を持つ。
分析結果のみならず、会社・社員の想いも踏まえた本質的・実践的なコンサルティングを行うことを信条としている。
中小企業診断士。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、人事戦略研究所の公式見解を示すものではありません。

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